架空金属産業(株)無責任事業承継物語 ~第7話:割れた鏡の組織~

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第7話。喫茶店の奥まった席で、上司である山田社長に石田部長の異動案を提示するゆういち。組織のゆがみを正すための「事業推進部」設立。説得の責任を丸投げしようとする社長に対し、会社の停滞は社長自身を映す鏡だと指摘し、激しい対立が生じるシーン。 無責任事業承継物語
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■前回のあらすじ

『生贄としての抜擢』

社長から世代交代を託された私に
突きつけられたのは、石田営業部長の
説得案を練り上げるという
「汚れ仕事の生贄」の役目だった。

悪者になりたくない社長の不決断により、
組織はもはや修復不可能な「割れた鏡」
のように歪んでいる。

私はあえて社長の『優しさ』を形にした
「名誉ある勇退案」を練り上げ、
石田営業部長のプライドを守りつつ
現場を退いていただく道筋をつくる。

会社の存続をかけた最後の密談が、
喫茶店の奥まった席で始まった。

■第7話:割れた鏡の組織

喫茶店の奥まった席。

立ち上るコーヒーの湯気が、
やけに白々しい。
目の前の山田社長は、すがるような
視線をこちらに向けていた。

だが、それは未来を語る目ではない。
「自分だけは泥を被りたくない。」
そんな卑怯な本心が、
その瞳の奥に透けて見えた。

山田社長
山田社長

『早速だが、どのような
案になったか聞かせてほしい。』

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(はぁ……、
自分が悪者になる案を
自分で考える身にも

なってほしい。)

山田社長
山田社長

先日聞いた、君の改善案は
進めていこうと思っている。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……石田営業部長を

異動させずに、社長主導で

改善案を進めてもらっても
いいですよ。

山田社長
山田社長

私には、
上手く説明できないだろ。
それに、副社長が
世代交代を条件にしている。

森田相談役
森田相談役

副社長がようやく
首を縦に振ったんですから
副社長の意向に沿った方が
いいでしょう。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

分かりました……。
では、説明を始めますね。

山田社長
山田社長

よろしく頼む。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

まず、『事業推進部』
という新しい部署を
設立します。

森田相談役
森田相談役

『事業推進部』ですか……。

 

ゆういち(私)
ゆういち(私)

その『事業推進部』に
石田営業部長を異動させます。

山田社長
山田社長

左遷させるということか?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

違います。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

長年会社を支えてきた
ベテランの知識と実績を、
次世代の成長に繋げる
ための専門部署として
異動していただきます。

山田社長
山田社長

……。
『体よく追い出された』と
捉えられることはないか?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(そう思うなら、自分で
考えればいいじゃないか。)

ゆういち(私)
ゆういち(私)

それは、
社長の伝え方ひとつでは
ないでしょうか。

森田相談役
森田相談役

確かに。
上手く伝えないと
いけないですね。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

現場の細かい数字から離れ、
全社の発展を見据えた大局的な
役割を担っていただきます。

森田相談役
森田相談役

これは
『名誉ある特別な役割』
として社長の優しさを
形にできますね。

山田社長
山田社長

なるほど。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

事業推進部には、
特定ユーザーへのテコ入れを
お願いすると同時に、
当社の顔として外部の会合等にも
積極的に参加していただきたい
と考えています。

山田社長
山田社長

急に役割が変わると
周囲もおかしいと
思うからな。それはいい。

山田社長
山田社長

その新しい部署は、
同じフロアでいいのか?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

『現場の混乱を防ぐための
必須の処置』として、
事業推進部は別室へ
移動していただくのが
最善かと思います。

森田相談役
森田相談役

石田営業部長も
年も年ですからね。
勇退の花道としても悪くない
のではないでしょうか。

山田社長
山田社長

……その考え、私とほぼ同じだ。
先輩を大事にしないと
後々、自分に返ってくるからな。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(……どの口がそれを言うのか。
自分で決断する勇気がないから、
私に言わせただけじゃないか。)

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(念のため、
釘を刺しておくか……。)

ゆういち(私)
ゆういち(私)

社長。この改革案の成否は

、結局のところ社長の本気度に

かかっています。

山田社長
山田社長

分かってる。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

管理職は責任が増える分、
当然反発も出るでしょう。
ここで社長が日和れば、
すべてが無駄になります。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

そこだけは、
心に留めておいてください。

山田社長
山田社長

何度も言わなくても
分かっている。
大丈夫だ。

山田社長
山田社長

ゆういち君と石田君が

犬猿の仲なのは、

お互いに問題がある。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(……どの口が言うんだ。
その『お互いの問題』を
数年間、見て見ぬふりをして
放置してきたのは誰だ。)

ゆういち(私)
ゆういち(私)

当然、自分のことが絶対に
正しいと思ってはいません。

山田社長
山田社長

謙虚なことはいいことだ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

営業課からエンジニアリング課の
課長になった時、仕事が少なく
技術者同士の仲も悪く
互いの悪口を言い合っていました。

森田相談役
森田相談役

当時は、会議のたびに
互いの欠点を言い合って
いるような惨状でしたからね。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

それを放置していたのが、
エンジニアリング課の課長を
兼任していた石田営業部長
だったじゃないですか?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

本当にあの時は大変でしたよ。

山田社長
山田社長

確かに、あの時は

売却や縮小も視野に
入れていた。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

そこを『何とかしたい!』
という一心で頑張りましたよ。

第7話。ゆういちが就任後に労働生産性を2倍以上に引き上げた実績グラフ。責任ある仕組みづくりが現場を変えることを証明し、上司へ改革の断行を迫る。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

2021年の就任前、
月平均で500千円以下だった
一人当たりの労働生産性を、
2025年には倍以上に
引き上げました。

山田社長
山田社長

たしかに、今の
エンジニアリング課には

活気がある。

森田相談役
森田相談役

決して仲がいいわけではないが
建設的な議論が出来る会議が

出来ている。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

現場は仕組み一つで、
ここまで変わるんです。

山田社長
山田社長

だが、その数字を
『鼻にかけている』と
石田君は言っているぞ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

いやいや、そんなことを
言っている人と
『どうやって仲良くなれ。』
って言うんですか?

山田社長
山田社長

……いいか、ゆういち君。
『相手は自分を映す鏡』だ。
君が直すべきところもある。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(きた。いつも最後は原因を
他者に押し付けて終わる。
……だが、今日ばかりは
引き下がれない。)

ゆういち(私)
ゆういち(私)

私と石田部長に限って言えば、
確かにそうかもしれません。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……ですが社長。
今のこの会社全体の
どんよりとした空気。
……これは、誰を映し出した
『鏡』だと思われますか?

森田相談役
森田相談役

「……っ!」

山田社長
山田社長

……ゆういち君、
君にも責任があるだろ!!!

社長の声が、静かな店内に響き渡り、
隣の客が、怪訝そうにこちらを見てきた。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

私に原因があるのは認めます。
……ですが、私『だけ』
にあるわけではありません。

山田社長
山田社長

………………
(激昂したまま固まる)。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(ふぅ。)

私は深く息を吐き、熱くなった頭を冷やした。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(……ふぅ。
ここでこの人を
完全に敵に回すのは、
今の私には得策ではない。
一歩引こう。)

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……感情的になりました。
少し言い過ぎました、
失礼しました。

山田社長
山田社長

……。
……まあ、君の必死さも
分かっている。
……分かった、石田君の説得は、
私が責任を持ってやろう。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

社長。
この改革案の成否は、
結局のところ社長の
本気度にかかっています。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

石田営業部長の説得を

よろしくお願いします。

山田社長
山田社長

分かった。

約束しよう。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(……そういえば、
まだ、副社長から直接本心を
聞いてなかったな。
そろそろ『条件』の真意を
確かめる時かもしれないな。)

『相手は自分を映す鏡』
上司にそう言われたとき、
あなたならどう返しますか?

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■背景情報

<会社情報>

<社名>架空金属産業株式会社 社員総数50名
営業部営業課 機械部品販売 営業 8名
営業部エンジニアリング課 機械修理・改造 技術者 5名
営業部営業管理課 営業活動の補佐
社員 5名
営業部総務課 人事・経理兼務 社員 4名
製造部製造1課 機械加工 作業者 10名
製造部製造2課 塗装 作業者 10名

<登場人物>

山田社長
山田社長

創業者

82歳

誰にでもいい顔をしたがる。

森田相談役
森田相談役

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

ゆういち(私)
ゆういち(私)

入社20年
46歳

エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業