若手の離職を防ぐ本音の対話|RPAとトイレットペーパーの矛盾から学ぶ組織の限界【第10話】

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工場の駐車場でトイレットペーパーを2袋抱えて歩く女性社員と、それを見かけ驚く作業着姿の男性社員のイラスト。DXとアナログの矛盾を表現。 町工場の事業承継・組織改革の実録
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■前回のあらすじ

停滞する現場を変える「特効薬」

副社長室で突きつけられた「客観的数字」
という高い壁。私は、独学で構築した自作の
管理アプリを起動した。

Pythonを駆使し、石田営業部長の
「勘」や「武勇伝」を無力化する
圧倒的な可視化ツール。

その覚悟に、冷徹だった副社長は
「俺が受けて立つ」と変革の共闘を誓った。

「ようやく会社が変わる」――。

孤独な戦いに一筋の光が差したと
確信した私は、その直後、現場に漂う
もう一つの深い絶望を目の当たりにする。

■RPAとトイレットペーパー

副社長室の熱気を冷まそうと歩く道すがら、
私は足を止めた。

灰色の工場風景の中で、
それだけが「場違いな白さ」を放っていた。
白いトイレットペーパーを二袋抱えた
人影が、足取り重そうに歩いていた。

それは、最新のデジタル技術で会社を
変えようとしていた私の高揚感を、
一瞬で冷ますほどにアナログな
光景だった。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……小林さん。
それ、どうしたの?

小林由美
小林由美

塩川総務課長に
ドラッグストアで
買ってくるように
言われました。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

トイレットペーパーぐらい、
ネットで買った方が
楽なんじゃないの?

小林由美
小林由美

私もそう思います。
でも、ダメなんだそうです。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

えっ!なんで?

小林由美
小林由美

そこが一番安い。
俺がそうしてきたから。
だそうです。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

なにそれ。

小林由美
小林由美

ホントですよ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

ちょっと、ついでで
申し訳ないんだけど
質問してもいい?

小林由美
小林由美

いいですよ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

小耳にはさんだんだけど
……小林さん、
会社を辞めたいって話、
本当だよね?

小林由美
小林由美

う~ん。
今すぐ辞めたいわけでは
ないですが、そう遠くない
将来にはやめると思います。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

荷物おいたら、
ちょっと場所変えて話いい?
10分ほど大丈夫?

小林由美
小林由美

大丈夫ですよ。

中が見えるガラス張りの
ミーティングルームに入る。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

詳しく聞いてもいい?

小林由美
小林由美

急にどうしたんですか?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……小林さん。
実はさ、少しずつだけど
会社を良くしていきたいと
思ってるんだ。

小林由美
小林由美

はぁ……。

怪訝そうに、こちらを振り向いた。

小林由美
小林由美

まぁ、もう我慢できない
ところもあるので、
なんでも話しますけどね。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

形式的なアンケート
じゃなくて、今の現場が
本当はどうなっているのか、
みんなの話を聞きたいと
思ってて。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

まずは、
小林さんの正直な気持ちを
聞かせてもらえないかな?

小林由美
小林由美

ゆういち課長は、
エンジニアリング課の
人以外で話してるの
あまり見ないから、
興味ないのかと
思ってました。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

興味がないというか、
特に総務課や営業管理課の
女性とは必要以上に
話さないようにしている。

小林由美
小林由美

えっ!
なんでですか?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

私としゃべるより、
1分1秒早く家に帰って
やることがあるだろうと
思うから。

小林由美
小林由美

なるほど。
そういう考えだったんですね。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

あと特定の人たちと
仲良くするのは
良くないかなと思って。

小林由美
小林由美

確かに。
ひいきしてるとか思われるの
面倒ですもんね。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

そうなんだよ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

ところで、
何で辞めたいの?

小林由美
小林由美

黙っててくださいね。
塩川総務課長が
どうしても無理なんです。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

あぁ、やっぱり。
下の名前で呼んでるのとか
さすがに度が過ぎてるな
と思ってた。

小林由美
小林由美

そうなんです。
職場で『由美ちゃーーん』は、
さすがにやばいですよ。
……正直、気持ち悪いです

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(24歳の彼女にとって、
親世代の男性から職場で
下の名前で呼ばれる
苦痛と恐怖。)

ゆういち(私)
ゆういち(私)

だよね。周りからも
『あれはさすがに……』
っていう声は、
実は私の耳にも届いているんだ。
聞いててずっと違和感があった。

小林由美
小林由美

ある日突然、
呼ばなくなりましたけど。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

社長に、
『名前呼び、止めさせた方が
いいですよ。』
って伝えたからかな。

小林由美
小林由美

そうだったんですね。
ありがとうございます。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

私は、若手社員が働きやすい
会社になってほしいと思って
活動をしてるんだけど、
変えてほしいところってある?

小林由美
小林由美

……。

ふう、と小林さんは
小さくため息をついた。

小林由美
小林由美

ん~、さんざん今まで
言ってきたんですが、
ダメだったので諦めました。

小林由美
小林由美

遅いPCは、いつまでたっても
買い換えてくれないのに、
変なイベントに大金使うし
全員強制参加だし。

小林由美
小林由美

塩川総務課長は、
気分によって
毎日態度違うし。

小林由美
小林由美

RPA勉強しろっていう割に
どこどこのトイレットペーパー
安いから買ってこい。
って言うし。

小林由美
小林由美

全体的に古臭いです。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

ところで、
RPAのゴールはどこなの?

小林由美
小林由美

聞きましたが、
『ただ勉強して。』としか
言われてません。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

ゴールが決まってないのに
やるように言われてるの?

小林由美
小林由美

そうですよ。
しかも、塩川総務課長は
『俺はアナログ人間だから。』
と言って自分では一切やらないし。

小林由美
小林由美

社長に言われたんじゃ
ないですか?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……。

図星を突かれて、苦笑いするしかなかった。

小林由美
小林由美

ただ、他の人たちは優しいので
その人たちに愚痴聞いて
もらいながら、
もう少しは頑張ります。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

そうなんだ。
話聞かせてくれて
ありがとう。

こうして、10分程度の会話が終わった。

山積みの課題と、根深い病理。
副社長室で感じた熱気は、
夕暮れの冷たい風にかき消され、
私は激しい絶望感を覚えた。

ただ、これが彼女の運命を大きく変える
出来事になるとはまだ気づいていなかった。

第11話は鋭意執筆中!

■背景情報

<会社情報>

<社名>架空金属産業株式会社 社員総数50名
営業部営業課 機械部品販売 営業 8名
営業部エンジニアリング課 機械修理・改造 技術者 5名
営業部営業管理課 営業活動の補佐
社員 5名
営業部総務課 人事・経理兼務 社員 4名
製造部製造1課 機械加工 作業者 10名
製造部製造2課 塗装 作業者 10名

<登場人物>

山田社長
山田社長

創業者
82歳
誰にでもいい顔をしたがる

山田副社長
山田副社長

山田社長の息子
製造部責任者
52歳
新しいものが好き

森田相談役
森田相談役

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

小林由美
小林由美

入社4年目の経理
24歳
正論を言わなくなった優等生

ゆういち(私)
ゆういち(私)

入社20年
46歳
エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業