架空金属産業(株)無責任事業承継物語 ~第6話:称賛の拍手と責任の行方~

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第6話:称賛の拍手と責任の行方。完璧なロジックを展開したゆういちに対し、上司である山田社長が石田部長の説得を丸投げするシーン。組織のゆがみを象徴する無責任な姿勢に、深い対立と焦燥感を抱くゆういち。自分の首を絞めることになるとは知らず、泥を被る覚悟を決める緊迫の場面。 無責任事業承継物語
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■前回のあらすじ

『不協和音のプロローグ』

ゆういちは売上の正体を
「見積件数×見積金額×受注率」と定義し、
停滞の要因を「数式の異常」として
切り分ける鉄壁のロジックを展開する。

顧客満足を優先し、あえて見積金額を
評価から外す「攻めの管理」に懐疑的だった
経営陣も唸り、導入を即決した。

噛み合った議論の音に酔いしれるゆういち。

しかし、その滑らかな回転の裏側で、
組織を揺るがす致命的な「異音」が
混じり始めていることに、
彼はまだ気づいていなかった。

■第6話:称賛の拍手と責任の行方

『……以上が、行動量の計測です。』
言葉が静寂に落ちる。

営業課への提案という最大の山場は越えた。
次は、組織を支える間接部門の番だ。

彼らへの感謝を、形骸化した言葉ではなく
『評価』という名の報酬で伝える。

熱気と困惑が混ざり合う濃密な空気の中、
モニターの青白い光が私の顔を非情に
照らし出す。

画面に、一つの理念が浮かび上がった。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……では次に、

・貢献度の可視化

・報奨による還元

の説明に移ります。

山田社長
山田社長

よろしく頼む。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

先ほどの行動計測が
営業課の『攻め』の
可視化であるのに対し、
貢献度の可視化
は、他部門の『守り』の
可視化です。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

誰一人として、
評価の枠外には置きません。

森田相談役
森田相談役

営業部にある部門は、
・営業課

・エンジアリング課

・営業管理課
・総務課
の4つでしたね……。

森田相談役
森田相談役

……これらすべてを、
一度に改善できますか?

相談役が、疑念を隠さずに問いかけてくる。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(私も一度にやるのは
無茶だとは思いますよ。
……けど、今の彼らの
評価はあまりに低すぎる。
放置できないんだよな。)

ゆういち(私)
ゆういち(私)

えぇ、なので
営業課以外は、評価指標を
絞り込み、簡略化します。

森田相談役
森田相談役

今まで、指標すらなかった
部門ですからね。
問題が起きれば、すぐに
変更すればいいだけか……。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

ええ。まずは欲張らず、
『評価の基準』そのものを、
この会社に根付かせることに
専念したいと考えます。

山田社長
山田社長

見積依頼、受発注・
納期の管理など、
営業活動の補佐を
一身に担う営業管理課。

山田社長
山田社長

人事や経理も兼務している
総務課もだ。
あそこの目に見えない業務を、
どうやって評価するというんだ?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……。
『見えない』のではなく、
社長がこれまで
『見ようとしなかった』
だけです。

山田社長
山田社長

……っ

図星を突かれた人間の、戸惑いと
羞恥が混ざったような表情で
社長が絶句する。

森田相談役
森田相談役

……では、具体的に
なにを評価するんですか?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

評価の対象は、
これだけに絞ります。

■貢献度の可視化(評価項目)

・営業課
 目標達成率+見積件数+受注率

・エンジニアリング課
 労働生産性+技術的貢献度

・営業管理課
 納期遅れ・受発注ミスの件数

・総務課
 社員満足度・求人面談件数・HP閲覧数

ゆういち(私)
ゆういち(私)

あれこれ追いかけず、
組織の『急所』を、
評価の対象にします

森田相談役
森田相談役

技術的貢献度は、
どう評価するんですか?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

技術者へ直接ヒアリング
を行い、『影の功労者』
を選出します。

山田社長
山田社長

……たった、それだけか。

森田相談役
森田相談役

しかし、
確かにこれらは、会社の
『今』が詰まってますね。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

ええ。
複雑な仕組みは続きません。
まずはこの数値を、
彼らへの『拍手』に変える
ことから始めます。

山田社長が指先で机を叩き、
少し催促するように口を開いた。

山田社長
山田社長

いよいよ最後だな。
・報奨による還元

について教えてくれ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

これは、私が一人で
決められる話ではありません。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

ですから、
現時点での構想を説明します。
目的は一つ、貢献と成長を
等しく還元する案です。

役職・部門を超えた『公正評価』への再構築案

■MVPMost Valuable Player
 圧倒的な結果を残した者への公正な報奨。

■MTPMost Thanks Player
 一定期間で『最も感謝された』上位2名。

■MGPMost Growth Player
 一定期間で『最も成長した』と認められた者。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

MTPは、数字で見えにくい
社員の貢献をすくい上げ、
不満を解消するために。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

MGPは、将来性のある若手に
希望を与えるために。
これらは、社員同士の
相互理解も兼ねています。

森田相談役
森田相談役

なるほど。
社員満足度アンケートと
同時に行えば、手間も
かからず一石二鳥ですね。

山田社長
山田社長

いい改善案だった。

前向きに進めていこう。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

はい。

山田社長
山田社長

これで話は、
終わりでいいか?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(なんだ?
早く終わってほしかった
ような言い方だな……。)

ゆういち(私)
ゆういち(私)

以上で、
私の話は終わりです。

全てのロジックを吐き出し終えた
私の声が、壁に跳ね返って消えた。

ようやく自分の番が回ってきたかと
思わせるように、
山田社長がゆっくりと口を開いた。

山田社長
山田社長

……よく考えられている。
だが、石田営業部長が
納得してくれなければ
意味がないぞ?

山田社長
山田社長

それはどうするつもりだ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(――始まった。
これが山田社長の悪癖だ。
肝心なところで責任を
部下に転嫁し、
自分は『話のわかる善人』の
ポジションに留まろうとする。)

ゆういち(私)
ゆういち(私)

社長。
最初におっしゃいましたよね。
『説得は私がする。石田営業部長は、
私の言うことは聞く。』と。

森田相談役
森田相談役

確かに、
そう言われてましたね。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

石田営業部長が納得するかどうかを、
導入の条件にしないでください。
説得は、社長の役割です。
私ではありません。

山田社長
山田社長

……だが、やるのは彼らだ。
現場の意見も尊重したいんだ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(――尊重、か。
その耳当たりの良い言葉が、
会社を停滞させてきたのに。)

ゆういち(私)
ゆういち(私)

社長。意見を尊重することと、
決定を委ねることは違います。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

営業利益率2%未満という
『事実』に対して、現場の
『感情』を優先させるなら、
それは尊重ではなく、
経営の放棄です。

森田相談役
森田相談役

山田社長!!
説得は、あなたに
しかできない役目だ

山田社長
山田社長

……確かにそうだな。
分かった。私から説明しよう。

山田社長
山田社長

……ただ、ゆういち君。
石田営業部長を納得させる
理由は考えてくれ。
任せたぞ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(は? この期に及んで、
まだ私に泥を被らせるのか?)

私は、社長の逃げ道を完全に塞ぐべく、
あえて無表情に問い返した。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……分かりました。
私が『納得する理由』を用意すれば、
今度こそ社長の口から、
責任を持って石田営業部長に
説明していただけるんですね?

山田社長
山田社長

……。ああ、約束しよう。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

(よし、言質は取れた。
あと少しだ。頑張ろう。)

視線を逸らし、虚空を見つめて頷いた社長。
その仮面の下に隠された『本性』を
見落としたことが、のちに私の首を
絞める致命的な一手になるとは、
この時の私は知る由もなかった。

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■背景情報

<会社情報>

<社名>架空金属産業株式会社 社員総数50名
営業部営業課 機械部品販売 営業 8名
営業部エンジニアリング課 機械修理・改造 技術者 5名
営業部営業管理課 営業活動の補佐
社員 5名
営業部総務課 人事・経理兼務 社員 4名
製造部製造1課 機械加工 作業者 10名
製造部製造2課 塗装 作業者 10名

<登場人物>

山田社長
山田社長

創業者

82歳

誰にでもいい顔をしたがる。

森田相談役
森田相談役

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

ゆういち(私)
ゆういち(私)

入社20年
46歳

エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業