職場の監視と陰湿な大人たち|効率化(RPA)の裏で若者が踏み潰された「1時間」【第11話】

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会議室にて、顔が黒塗りになった二人の男性管理職に囲まれ、組織図を手に持ちながらうつむいて説教を受けている若い女性社員のイラスト。 町工場の事業承継・組織改革の実録
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■前回のあらすじ

組織の闇に消えた「10分の対話」

最新技術で会社を変えようとする高揚感は、
トイレットペーパーを抱えて歩く
小林さんの姿に一瞬で冷まされた。

密室で聞いた彼女の本音は、時代錯誤な
「名前呼び」や、根拠のない業務命令、
そして「俺がやってきたから」という
思考停止が支配する現場の惨状。

10分程度の対話で浮き彫りになったのは、
若手が諦め、去るのを待つだけの腐敗した
組織の姿だった。

ただ、無自覚な「正義感」が、彼女を奈落へ
突き落とす引き金になるとは知らずに。

■取り返しのつかない、崩壊の引き金

駐車場から社屋へと続く、わずかな距離。
偶然、小林さんと歩調が重なった。

昨日の「迷い」は消えた代わりに
私の目に飛び込んできたのは、
ひどく冷たく、石のように硬く強張った
彼女の横顔だった。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

おはよう。
昨日はありがとう。

小林由美
小林由美

………
おはようございます。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

どうした?
元気ないけど、
なんかあった?

小林由美
小林由美

実は昨日、塩川総務課長から
言われたんです。
『昨日、ゆういち課長と
何をしゃべったのか、
詳細を日報に書け』って。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

えっ?
10分程度話しただけで?

小林由美
小林由美

そうなんです。気持ち悪くて……。

小林由美
小林由美

一応、同じ部屋にいる副社長の
奥さんにも相談して、
『相談に乗ってもらいました』って
書きましたけど、課長のあの顔……
納得してないと思います。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

迷惑かけてごめん。

小林由美
小林由美

話を聞いてもらって、
少し楽にはなったんで、
それはいいんですが。

小林由美
小林由美

今日も夕方呼ばれているし。
かなり面倒なことになりました。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

えっ!なんのために?
意味が分からないんだけど。

小林由美
小林由美

私も分かりませんよ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……ごめん。
そんなことになるとは
思わなかった。

小林由美
小林由美

ゆういち課長のせいじゃ
ないですよ。
……こんな会社だったって
だけですから。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

夕方どんな話だったか、
また教えてもらえる?

小林由美
小林由美

分かりました。

夕方、仕事を終えた小林さんが、
人目を避けるように段ボールの影に身を潜め、
倉庫にいた私に近づいてきた。
周囲に人の気配がないのを何度も確認しながら、
目を伏せ、小声で私に話しかけてきた。

小林由美
小林由美

……本当に、終わってますよ。

彼女の声は震えていた。

小林由美
小林由美

石田営業部長と塩川総務課長の
二人に囲まれて……
『君は総務課の人間だ。
エンジニアリング課に相談するなら、
まず総務課の私を通すべきだ』
って言われました。

小林由美
小林由美

そして、
わざわざ印刷した組織図を
持ち出してきて、
一時間以上も『組織の筋』
とやらを説教されました。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

こんな少人数の会社の、
50を超えたおじさんが
二人がかりで……一時間も?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……そんなの

自分の不用意な一言が、
これほどまでに彼女を追い詰める結果を
招くとは思いもしなかった。
「力になりたい」などという言葉は、
結局、安全な場所にいる人間の独りよがりな
傲慢だったのではないか。

自問自答の刃が自分を切り刻む。
私のその「知りたい」という浅はかな欲求が、
彼女を奈落へ突き落としたのだ。

私の沈黙をどう受け取ったのか、
彼女は乾いた声で続けた。

小林由美
小林由美

私、もう……
本当に無理になりました。

小林由美
小林由美

相談しても、
無視するくせに……

小林由美
小林由美

何を変えようとしても、
結局この人たちが全部
踏み潰すんだって、
よくわかりました。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

軽々しく声をかけてごめん。
こんなことになるなんて、
思いもしなかった。

まさか、たった10分の「聞き取り」が、
これほど陰湿な「吊し上げ」を招くとは。

小林由美
小林由美

ゆういち課長のせいじゃないです。
……ただ、
陰湿な大人がいるんだって、
初めて知りました。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……小林さん。
一度、
この話を社長にしてもいいかな?
君が辞めようとしていること、
その原因がどこにあるのかを。

小林由美
小林由美

いいですよ。
好きにしてください。
……こっちから辞める理由を
説明する手間が省けますし。

彼女の瞳には、
もう怒りすら残っていなかった。
ただ、朝の光すら通さない
深い虚無があるだけだ。
私は、彼女を追い詰めたあの紙切れを、
脳内で何度も握りつぶした。

すまない。本当に。

その言葉を飲み込み、私は前を見据えた。
彼女が諦めたこの場所を、
このままにしておくわけにはいかない。

第12話は鋭意執筆中!

■背景情報

<会社情報>

<社名>架空金属産業株式会社 社員総数50名
営業部営業課 機械部品販売 営業 8名
営業部エンジニアリング課 機械修理・改造 技術者 5名
営業部営業管理課 営業活動の補佐
社員 5名
営業部総務課 人事・経理兼務 社員 4名
製造部製造1課 機械加工 作業者 10名
製造部製造2課 塗装 作業者 10名

<登場人物>

山田社長
山田社長

創業者
82歳
誰にでもいい顔をしたがる

山田副社長
山田副社長

山田社長の息子
製造部責任者
52歳
新しいものが好き

森田相談役
森田相談役

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

小林由美
小林由美

入社4年目の経理
24歳
正論を言わなくなった優等生

ゆういち(私)
ゆういち(私)

入社20年
46歳
エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業