■前回のあらすじ
生贄にされた私と経営陣の放棄
「延期」され、相談役も同席を拒否。
決定事項だったはずの改革は、
いつの間にか私個人の「案」へと
格下げされた。
形骸化した説明会に響く空虚な言葉。
それは組織の調整ではなく、
経営陣による「改革の放棄」だった。
■第18話:自分を映す鏡と報いの足音
「先行管理システム」の導入は、
事実上、棚上げにされた。
組織の規律を正そうとする私の手から、
社長は静かに「正当性」
という名のカードを奪い去ったのだ。
期待を捨て、心を閉ざしかけた中、
私は再び社長室へと呼び出された。

今度は何の呼び出しですか?

ようやく、管理システムを
説明する決心がつきましたか?
期待などとうに捨て去っていたが、
儀礼的な響きを崩さず、
あえて反応を試すように問いかけた。

いや、その件は
タイミングを見ているから
もう少し待ってほしい。
社長がそっと視線を逸らす。

タイミング……?

(結局、明言は避けるのか)

使うのは間違いないんだ。
ただ、もう少し待ってほしい。

……それより、
孫の博人のことで
相談したいんだ。

あぁ、
6年前に亡くなった
下地さんの息子の
博人君ですか……。

営業に回り3ヶ月。
私から見て、あいつが
何もしていないように
見えるんだが……。
君はどう思う。

えっ、
実際何もしていないですよ。

やっぱりそうか。

あまりに暇そうだったので、
第1グループの若手たちに、
「一緒に回ってあげてほしい」
と、私が頼んでいたこと……
社長はご存知ないですよね。

気にかけてくれていたのか……。
ありがとう。

まぁ第2グループでは、
雑用ばかりでイヤになって、
辞めてしまうかもしれませんね。

それでは困るんだ。

ゆういち君、君が面倒を見るとか、
うまくやってくれないか?

それは無理ですよ。
博人君本人の
『父と同じ顧客を引き継ぎたい』
という強い希望を汲んで、
第2グループへの配属を
認めたのは社長じゃないですか。

とはいえ、ボリュームのある
副リーダーの仕事を
引き継ぐことになるので、
来期は彼を『営業管理課』に
所属させ、階層別荷重配分から
外しています。

私が博人君に指示を出せば、
石田部長を飛び越える
ことになるので、
間違いなく揉めますよ。

そんな無責任なことは
できませんよ。

そうは言っても、
博人と同じ時期に入社した
第1グループの渡辺君は、
すでに活躍している。

まぁ、そうですね。

第2グループのリーダーも
副リーダーも
教えるのが下手ですからね。

ここ数年で辞めていったのは、
ほとんど第2グループの
子たちですからね。

そうなんだ。
だから心配なんだ。

そんなこと、今更言われても
知りませんよ。

……(絶句する)。

とはいえ、教える側だけが悪い
わけではありません。
博人君にも問題はありますよ。

若手社員から、
博人君の問題点は
いろいろ聞いていて
実際浮いています。

なにかあったのか?
入社早々、現場で汗を流す
若手の先輩たちに向かって、
彼は事も無げにこう言い放った。
「若手は貢献できていない、
もっと元気を出しましょう!」
……当然、総スカンを食らった。
「下地さんの息子」という看板だけで
許されるほど、現場の仕事は甘くない。

なんとかしてやってくれないか。

まぁ、
「なんとかしてあげたい」
とは思っていましたが……
もう手遅れですよ。

これ以上、社内で争いの種に
なることはお断りします。
申し訳ありませんが、
石田部長にご相談ください。
「嫌なら辞めてもいい」
そう言い切った過去の自分に、
今、背中を刺されている。
いざ自分の身に降りかかれば、
これまでの無礼を忘れて泣きつく。
だが、あなたの目の前にいる
孤立した「動かない若手」の姿こそ、
社長、あなた自身を
映し出す鏡そのものです。
とりあえず、これで私の「役割」は終わった。
最近分かったのは、社長の頼みを聞くことが、
必ずしも会社にとって良いことではなかった。
会社を2分し、私か石田部長のどちらかが
辞めないといけないところまで行ってしまう。
それは、私が本意とするところではない。
私の居場所は、もう決まっている。
自分を慕ってくれている「エンジニアリング課」
のみんなのために、全力を尽くすだけだ。
⚖️ 私情と無責任が招く会社の断末魔
-
✔
ルールの私物化:
規律を盾にしながら、
身内には「情」で例外を作る。 -
✔
現場への丸投げ:
自ら招いた不都合なツケを、
現場の善意で埋めさせようとする。 -
✔
自覚なき因果応報:
組織の腐敗は、経営陣の
「不誠実」が映し出された鏡である。
改革を捨てた経営陣に、
現場が差し伸べる手は
もうありません。
■背景情報
<会社情報>
| <社名>架空金属産業株式会社 社員総数50数名 | ||
| 営業部営業課 | 機械部品販売 | 営業 8名 |
| 営業部エンジニアリング課 | 機械修理・改造 | 技術者 5名 |
| 営業部営業管理課 | 営業活動の補佐 |
社員 5名 |
| 営業部総務課 | 人事・経理兼務 | 社員 4名 |
| 製造部製造1課 | 機械加工 | 作業者 10名 |
| 製造部製造2課 | 塗装 | 作業者 10名 |
<登場人物>

創業者
82歳
誰にでもいい顔をしたがる

山田社長の息子
製造部責任者
52歳
新しいものが好き

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

数少ない生え抜き社員
58歳
社長公認の「子供っぽさ」
がある感情的な性格

入社4年目の経理
24歳
正論を言わなくなった優等生

入社20年
46歳
エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業
