■前回のあらすじ
正論の弾丸と老いた既得権益
営業利益から逆算した新基準を
提示するゆういち。
逃げ道を塞がれた面々が動揺する中、
既得権益を守る石田部長は沈黙を貫く。
密室での反撃を予感させつつ、
改革の火蓋が切られた。
■第16話:再開される、不条理な「密室の裁判」
正論の弾丸は、老いた既得権益を貫いた。
逆算型目標と階層別荷重配分。
数字という「逃げ場のない真実」を
突きつけられた石田部長は、改革の火を
消そうと、被害者を装い社長に泣きつく。
そして、再び「改善詐欺」の舞台となる
社長室へ呼び出された私は、
耳を疑う言葉を投げかけられる。

おぉ、ゆういち君。
先日はありがとう。

石田君も目標数字に
納得してくれたし、
ゆういち君の内容で
進めることになった。

(……は?
設定方法を決定したから
発表したんじゃないのか?)

(石田部長がゴネたら、
白紙になっていた。
ということか。)

はぁ……。
それは良かったですね(棒読み)。

次は人事変更の話ですか?

……。
いや、それなんだが、
それはもう少し待ってほしい。

別にいいですけど、
それが決まらないと
私は何もできませんよ。

まぁ、そうなんだが……。

いろいろ石田部長が、
私たちの悪口を言っているのは
耳に入ってきますけど、
とりあえず我慢しておきます。

用件がそれだけなら、
失礼しますよ。

いや、ちょっと待ってくれ。

次は営業管理システム導入を
進めたいのだが、
石田くんが導入しないと
騒いでいるんだ。

あれは営業活動の
『見える化』を進めるために
私が独学で作ったシステム
ですからね。
営業活動「多角的可視化」マトリクス
年度・月度・グループ選択可
- 単月結果(全体・G別・個人)
- LTV(顧客生涯価値)推移
- 受注残金額 / 見込金額
- 平均見積額 / 平均受注額
- 受注率(成約歩留まり)
- 失注原因の割合分析
- ユーザー別・担当者別見積数
- 見積進捗の即時確認
- 行動量と成果の因果関係
「勘」と「経験」を「事実」と「数字」へ。
これが本来の営業管理。
▼ 副社長に説明した「改革の全貌」

社長が進めたいのであれば、
『進める。』と言えば
いいじゃないですか?

まぁ、そうなんだが……。
そのシステムによって、
ゆういち君が『営業社員に
強くあたるのではないか?』
と、石田君が言うんだ。

はぁ、
『どの口が言ってんだ。』
って話ですよ。

一度、この資料を見てください。

「見てください、この惨状を。
第2グループのLTVも見積件数も、
10年かけて右肩下がりです。」
無策のまま、
若手の負荷だけを増やし続ける。
この数字は、
その『怠慢』の積み重ねですよ。

確かに。
これは問題だ。

結局、営業活動の『見える化』が
進むことで、言い訳できなくなるのが
怖いだけだと思いますよ。

なるほど。
目標数字の時も、石田君は
私らの前で騒いでいたからな。

ねぇ、森田相談役。

……まぁそうですね。
ただ、数字の作り方は
事前に説明もしてあったので
最終的には納得しましたが。

そういうのは、会議で
話するもんじゃないんですか?

裏で言ってひっくり返せるなら、
会議の意味なんて
なくなるじゃないですか?
図星を突かれ、ばつが悪そうに目を逸らす。

……。
まぁ、そうなんだが。

結局どうすればいいんですか?

我々は、システム導入は
するべきだという考えだ。

だが、石田君が反対している以上
それもできない。

(……。
そんなこと何度も説明したし、
分かりきっていたことでしょ。)

じゃあ、もういいですよ。
やめましょうよ。

いや、
導入は進めたいんだ。

じゃあ、
どうすればいいんですか?

ゆういち君が、
一度頭を下げてだね……。

仲良くなって
上手くやってほしいんだ。
「は? 無理ですよ。
あの人は、私を貶めるために
意図的にマイナスの資料を捏造
するような人間ですよ。」
「それを何度指摘しても修正しない。
社長にも重大な責任がありますよ。」

あれは、何度説明しても
分からないんだよ。

じゃあ、
あの資料を私に見せる前に、
社長が『間違っている!』と
跳ね除けるべきだったんですよ。

……。

とりあえず、『仲良く』は
あっちに言ってください。

いや、向こうも同じことを
言っているんだ。
先にゆういち君が
大人になってくれないか?。
「なぜ、私が折れる必要が
あるんですか?
上司という特権で執拗な嫌がらせを
続けてきたのは石田さんだ。
加害者に歩み寄れ? 理不尽すぎる。」
「私は、虐げられてきた課員の
環境改善と給与UP、
そして『若手社員の壁』
としてここに立っています。」
「ここで私が折れれば、
私を信じてくれた
全ての仲間の期待を
裏切ることになる。
それだけは、
死んでもできません。」
社長の顔から余裕が消える。
私の言葉は、単なる反論ではない。
共に 泥をすすりながら現場を支えてきた、
仲間たちを裏切ることはできない。

私は、君が間違ったことを
言っているとは
思っていないんだ。
副社長も同様の考えだ。

じゃあ、社長主導で
進めればいいじゃないですか。

いや、そうは言っても今
会社の雰囲気が非常に悪いんだ。

強引に進めればそうなりますよ。
私は釘を刺しましたよ。

そこを強引に進めたのは
社長ですからね。

……。
見かねて相談役が助け舟を出す。

……ゆういち君、君の言う通りだ。
私の見通しも甘かった。

石田部長が社長の言葉を
正しく理解し、現場と
協調できると信じてしまった。

私にも、
この事態を招いた責任がある。

石田君は、
あの通り戦略を練ったり
何かを立案する能力が
極めて低いんだ。
そこは理解してくれ。

(能力の欠如については)
とっくに理解していますよ。

しかも少人数だから、
簡単に排除することが
正解だとも思ってないです。
……ですが、
「そんな人を営業部長に
据え続けたのは社長です。
すべての責任は、
任命した社長にあります。」
「このまま無策を続ければ
若手が苦しむだけの会社になる。
それを見過ごせません。」
「反対されたら私が悪いと引っ込める。
社長、あまりに無責任です。」

言いたいことは分かった。
しかし、今回の目標数字も
納得してくれた。

そうですね。

だからまた、
来週のミーティングで
相談役の指示という
体裁で説明してほしい。

いや、どう考えたって
こればっかりは無理ですよ。

私が責任を持つから。
安心してくれ。

(はぁ、またこっちに
批判の種が飛んでくるよ。)

分かりました。
ミーティングの時に話ができる
準備だけはしておきます。

おぉ、よろしく頼む。

(ここまで言っても
クビにならないんだから、
社長の度量も相当なもの
なのかもしれないな……。)
とりあえず密室の裁判は幕を閉じた。
次回のミーティングで、
石田部長がどう動くか。
私は、仲間たちの未来を背負って
戦う準備を始めた。
⚖️ 『責任』が曖昧な組織の共通点
- ✔ 「大人になってくれ」という言葉で、
理不尽な現状や上司の怠慢を
正当化している。 - ✔ 「任命責任」を棚に上げ、対立の解消を
被害を受けている側に押し付けている。
これらに心当たりがあるなら、
それは「円満な解決」ではなく、
経営陣による『責任転嫁』です。
■背景情報
<会社情報>
| <社名>架空金属産業株式会社 社員総数50名 | ||
| 営業部営業課 | 機械部品販売 | 営業 8名 |
| 営業部エンジニアリング課 | 機械修理・改造 | 技術者 5名 |
| 営業部営業管理課 | 営業活動の補佐 |
社員 5名 |
| 営業部総務課 | 人事・経理兼務 | 社員 4名 |
| 製造部製造1課 | 機械加工 | 作業者 10名 |
| 製造部製造2課 | 塗装 | 作業者 10名 |
<登場人物>

創業者
82歳
誰にでもいい顔をしたがる

山田社長の息子
製造部責任者
52歳
新しいものが好き

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

数少ない生え抜き社員
58歳
社長公認の「子供っぽさ」
がある感情的な性格

入社4年目の経理
24歳
正論を言わなくなった優等生

入社20年
46歳
エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業
