■前回のあらすじ
『副社長室での対峙と、覚悟の起動』
世代交代を拒む石田営業部長の執念と、
若手が会社を見限る「二つの無駄」という現実。
組織の病理を断つための改革案を提示する。
だが、どうやって客観的に管理する?
私は、独り夜を徹して磨き上げた「武器」を
静かに起動した。
■第9話:停滞を断ち切る独学の武器
『理論としてはまとまっている。
だが、どうやって営業課の数字を
客観的に管理するつもりだ?』
暗がりの副社長室に、
山田副社長の低く冷徹な声が響く。
キャンプ道具に囲まれた遊び心のある
空間とは裏腹に、その視線は
私の本気度を値踏みするように鋭い。

ただ口で言っているだけなら、
誰も賛同しないぞ。

……そう言われると思い、
準備してきました。
私はノートPCを開き、ケーブルを繋ぐ。
大型モニターに、黒を基調とした
鮮やかなグラフが並ぶダッシュボードが
映し出された。

Demo Screen: For illustrative purposes only.

安全のため基幹システムは避け、
私の範囲で出力できるデータから
自動解析するアプリを自作しました。
副社長が椅子を引き寄せ、画面を凝視する。

……これを、お前が作ったのか?
外注ではなく?

半年前に
『Googleアナリティクス』
のようなUIで、
自社の数字を可視化できたら
面白いなと思ったんです。

最初はエンジニアリング課の
管理を効率化するために
アプリを作り始めました。

自分でスクールにでも
通ったのか?

いえ。YouTubeです。
VTuberのサプーさんの動画で
PythonとVSCodeを学び、
実務に合わせて組み上げました。
本記事に登場する管理アプリは、
Pythonエンジニアのサプー氏が運営する
YouTubeチャンネル
『Pythonプログラミング VTuber サプー』
の解説動画を参考に、独学で構築したものです。
右も左も分からなかった私に「技術という武器」と
「作る楽しさ」を授けてくださったサプー氏の、
圧倒的に分かりやすく温かい知見に、
この場を借りて深く感謝申し上げます。
(数秒絶句し、突然、噴き出すように笑う)

半年で作ったのか。
ハハッ、傑作だな!

次期営業部長候補が
VTuberに教わって、
今の流行りのRPAを
独学で作り上げるとは!

たかが、地方企業の管理職
なんて、恥ずかしくて
自慢にもなりませんよ。

それは言いすぎだろ。

金はいくらかかったんだ?

お金はかかっていません。
かからない方法を考えたので。

GUIはTkinter、
当然、会社の情報を勝手に
外部に出せないので、
データベースはSQLite3、
アプリ化はPyInstallerを
使いました。
⚠️ 自作アプリの技術仕様
■ GUI(操作画面):Tkinter
Python標準搭載のライブラリ。
追加インストールが不要で、
軽量かつシンプルなボタンや
グラフ配置に適しています。
■ データベース:SQLite3
「1つのファイル」がそのまま
データベースになる仕組み。
サーバーを立てる必要がなく、
社内の共有フォルダに置くだけで
複数人からのデータ参照が可能です。
■ 配布形態:PyInstaller(.exe化)
作成したPythonプログラムを、
Windowsでそのまま動く
「exe形式」に変換。
Pythonをインストールしていない
同僚のPCでも、アイコンを
ダブルクリックするだけで起動できます。
■ 開発環境:VSCode
サプー氏の動画を参考に構築した
プロ仕様のエディタ。
デバッグ機能を駆使することで、
複雑なグラフ表示のエラーも
乗り越えることができました。

営業活動より
向いてるんじゃないか?

そんな甘くないですよ。
起動に1分もかかる
『重い』アプリですから。

それでもすごいぞ。

俺には絶対に無理だ。

意外と簡単でしたよ。
困ったら、AIに聞けば
すぐ教えてくれますし。

いろいろ使いましたが、
Geminiが一番良かったです。

まぁ、いざとなれば
他社でも生きていける
『武器』になりますから。

……悪かった。
では、説明を続けてくれ。

Demo Screen: For illustrative purposes only.

では説明を続けます。
これは、先行管理の
ダッシュボードです。

ラインは将来の予兆を捉え、
バーで現在の着地実績を
監視する構成にしています

……営業課全体と各グループの
動きが一目でわかるな。
副社長の声が低くなる。

それだけではありません。
私は左端のボタンをクリックした。

10年分のデータを月単位で
瞬時に切り替えられます。
過去の傾向との比較も、
その場で完結します。
副社長が感心したようにため息をついた。

これじゃあ、石田さんの
『勘』も『武勇伝』も、
ただの美化された思い出話だな。
私はマウスで画面を横にスライドさせた。

Demo Screen: For illustrative purposes only.

スワイプもできるのか?

はい、スワイプのような
直感的な操作で
切り替えられます。

次は、真ん中のページです。
見積件数や受注率、LTVなど、
成果に直結する4指標を
セットにしました。

結果=
見積件数 × 見積金額 × 受注率
というわけか。

これだと
『頑張ったがダメでした。』
が通じないな。

そうです。

さらに右のページには、
顧客別、そして担当者別の
見積件数です。

Demo Screen: For illustrative purposes only.

そして一番右の円グラフが、
『失注原因』の集計です。

失注原因まで……
可視化できるのか。

はい。
現場に原因を入力してもらう
手間はありますが、
その価値はあります。

これがあれば、
誰がどこで躓いているか。
言い逃れは通用しません。

上司の活動内容も部下から
丸見えになるわけか。

……これは間違いなく、
他の管理職からの
反発があるぞ。

だからこそ、
抑えていただく
必要があるんです。
社長と副社長に。

社長はこのデータを
見て何と言っていた?

社長にも見せたんだろ?

社長には『AIで作ったのか?』
と言われ。
……少しイラっとしました。

社長らしいな。
分かった、
俺がフォローする。

石田さんたちの反発は
俺が受けて立つ。
お前はこの道を進め。

……ありがとうございます。
よろしくお願いします。
PCを閉じると、ファンの回る音が消え、
副社長室はひっそりとした静寂に戻った。

……さて、帰るか。
立ち上がる際、副社長が私の肩を
一度だけ強く叩いた。
■背景情報
<会社情報>
| <社名>架空金属産業株式会社 社員総数50名 | ||
| 営業部営業課 | 機械部品販売 | 営業 8名 |
| 営業部エンジニアリング課 | 機械修理・改造 | 技術者 5名 |
| 営業部営業管理課 | 営業活動の補佐 |
社員 5名 |
| 営業部総務課 | 人事・経理兼務 | 社員 4名 |
| 製造部製造1課 | 機械加工 | 作業者 10名 |
| 製造部製造2課 | 塗装 | 作業者 10名 |
<登場人物>

創業者
82歳
誰にでもいい顔をしたがる

山田社長の息子
製造部責任者
52歳
新しいものが好き

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

入社20年
46歳
エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業