■前回のあらすじ
理不尽な和解案と消えた任命責任
石田部長は社長に泣きつき反撃。
社長室に呼び出されたゆういちは、
「君が大人になって歩み寄れ。」と
理不尽な和解を迫られる。
任命責任を棚に上げる経営陣に対し、
仲間を裏切れないと拒絶するゆういち。
密室の裁判を経て、次なる戦いの
舞台であるミーティングが始まる。
■ 第17話:骨抜きにされた改革と「空席」の責任
早朝の静寂を切り裂くように、
スマートフォンのバイブ音が響く。
画面に表示されたのは「山田社長」の名前。
胸の奥がざわつく。嫌な予感しかしない。
私は小さく息を吐き、通話ボタンを押した。

おはようございます。
ゆういちです。

この前話していた、
ミーティング後に
システムの説明を行う話だが、
あれを白紙にしてほしい。

えっ?
どういうことですか?

この前決めた、
システム導入の説明を
ミーティング後、
全体に話すのは
「延期にしてほしい。」
という話だ。

は?「導入したい。」と
言ったのは、そちら側ですよ。

意味が分からないんですが?

とにかく、全体に話すのは、
延期にしてほしいんだ。

とはいえ、グループ長には
個別に話してくれていい。

詳細は、相談役に聞いてほしい。

全体への説明は中止ではなく、
延期ですね。

ちなみに、社長は個別説明会に
参加するんですか?

私はいない方がいいだろ。

……は?
何の意味もなくないですか?

……分かりました。

おお、そうか。
では、またミーティングでな。
私は想定内の絶望を感じながら、
底知れぬ無責任さに呆れ果て、
相談役に電話をかけた。

森田相談役、
おはようございます。

社長から、全体への説明会を、
「延期にする。」と聞きました。

そうです。
延期になりました。

(……ん、
なりました?)

でも、そろそろ
システム導入にむけて、
話を進めていかないと
来期のスタートに
間に合わないですよ。

そうですね。

なので、グループ長のみへの
説明は進めてください。

そんな説明は、会社全体での
拘束力がない以上、
なんの意味も持たないですよ。

あと、何て言って説明を
始めればいいんですか?

それは、
私がミーティングの後に、
「グループ長全員で
ゆういちさんの話を
聞いてほしい。」
と伝えます。

そのあとに
話をしてくれればいいです。

その個別の説明会に
森田相談役は、
出席されるんですか?

私は出席しません。

そうなると、
「なぜグループ長が
招集されたのか?」を
説明するのが難しいですよ。

その時は、
「私がそう言っていた。」
と言ってくれればいい。

そんなの、
何の役にも立たないですよ。

もしかして逃げました?

……。
電話の向こうで、
相談役の卑怯な沈黙が流れた。
伝わってきたのは、
組織の闇を煮詰めたような、
乾いた苦笑い。

まぁ、そういうことで
お願いします。

……分かりました。
説明を行います。

では、
ミーティングを始めます。
いつも通りの当たり障りのない
ミーティングが進み、
終わりに近づいたとき、
森田相談役が口を開く。

ミーティング終了後、
3つのグループ長同士で、
来期に向けたゆういちさんの
「案」を聞いてください。

(案……?
決定事項じゃなかったのか?)

では、
ミーティングを終わります。
石田部長は、少しむっとした表情で、
ミーティングを締め、
逃げるように会議室を後にした。

(あれ?
第1グループ長はいるが、
第2グループ長がいない。)
ミーティングが終わり、
説明会に残ってくれたのは、
第1グループ長と第2グループの
『PCに強いから』という理由で
押し付けられた若手のリーダーだ。
これこそが、この説明会に
なんの意味もないことを表しており、
石田部長からの『拒絶回答』だった。

では、説明会を始めます。
案の定、説明の言葉は空を切った。
「導入」という決定を欠いた言葉に、
説得力など宿るわけがない。
改革の武器は、「システム紹介」
として静かに幕を閉じた。
— 響かない言葉、動かない組織。
∅
では、説明会を終了します。
お疲れさまでした。
私は、深く息を吐き、
「もう、彼らに期待するのはやめよう。」
と心に誓うには十分だった。
⚖️ 『責任』が曖昧な組織の共通点
-
✔
「決定事項」を個の「案」にすり替え、
失敗した時の責任を現場に押し付ける。 -
✔
「延期」や「不在」を容認することで、
不都合な改革を骨抜きにし、
アリバイ工作だけを行う。
これらに心当たりがあるなら、
それは組織の「調整」ではなく、
経営陣による『改革の放棄』です。
■背景情報
<会社情報>
| <社名>架空金属産業株式会社 社員総数50名 | ||
| 営業部営業課 | 機械部品販売 | 営業 8名 |
| 営業部エンジニアリング課 | 機械修理・改造 | 技術者 5名 |
| 営業部営業管理課 | 営業活動の補佐 |
社員 5名 |
| 営業部総務課 | 人事・経理兼務 | 社員 4名 |
| 製造部製造1課 | 機械加工 | 作業者 10名 |
| 製造部製造2課 | 塗装 | 作業者 10名 |
<登場人物>

創業者
82歳
誰にでもいい顔をしたがる

山田社長の息子
製造部責任者
52歳
新しいものが好き

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

数少ない生え抜き社員
58歳
社長公認の「子供っぽさ」
がある感情的な性格

入社4年目の経理
24歳
正論を言わなくなった優等生

入社20年
46歳
エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業
