組織のメンツと現場の尊厳|理不尽な「謝罪」を強要された末路【第21話】

理不尽な謝罪を要求する石田部長の怒りと、感情を無くし冷静に対峙するゆういち。背景には怒る山田社長と森田相談役。組織のメンツと現場の尊厳の対立を描いたブログアイキャッチ画像。

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■前回のあらすじ

開戦の号砲|経営陣との断絶

現場無視の値上げを強行し、
理不尽な責任を押し付ける経営陣。
顧客を無視した言動に、
怒りが爆発した私は「課長辞任」
も辞さない覚悟で戦った結果、
社長が非を認め、「5%アップ」
という形で決着を迎えたが、
組織との溝は決定的となった。

第21話:虚無の「謝罪」|組織のメンツと、現場の尊厳

Episode 21 / Prologue

経営陣の理不尽な値上げ強行に、
一度は課長辞任を叩きつけた私。

事態は収束したかに見えたが、
石田部長からの「謝罪要求」
という新たな火種が燻っていた。

組織論理と個人が激突する、
決別へのカウントダウン。

COUNTDOWN
石田部長
石田部長

ゆういち君、
ちょっと来てくれ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……。
はい、分かりました。

⚡ CONFRONTATION / SITUATION

会議室の扉を閉め、石田部長と
真正面から対峙する。
彼と二人きりで、まともに言葉を
交わすのはいつ以来だろうか。

自分から呼び出しておきながら、
すでに、石田部長の表情から
不機嫌さがにじみ出ていた。

STAGE 21
石田部長
石田部長

先日の作業費UPの件だが、
エンジニアリング課は、
お前の言う通り、5%UPで
進めることになった。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……。
分かりました。
ありがとうございます。

石田部長
石田部長

営業課の規定は、
こちらで決定するが、
問題ないな。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

「問題ない」もなにも、
こちらから言うことは、
なんにもないですよ。

石田部長
石田部長

そうか、決定事項を来週、
営業課員に話をする。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……どうぞ。

INNER VOICE(心の声)
ゆういち

営業課員は猛反発
するだろうが、
もう、私の知ったこと
ではない。

現場の状況も顧みず、
経営陣だけで勝手に決めた
歪んだルールだ。
それで営業現場がどうなろうと、
筋違いの尻拭いをする義理は
一ミリもない。

……顧客を無視し、彼らの
都合で引いたレールの上を、
一体誰が歩くというのか。
破綻していく組織を、私はただ
冷ややかに見つめていた。
APATHY
石田部長
石田部長

それはそうと、前回会議の
お前の態度、森田さんから
「あのまま放っておくのか?」
と言われたぞ。

石田部長
石田部長

「石田さんがちゃんと
指導しないとダメですよ。」
と言われたんだ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……いや、あれは社長が
「進め方が悪かった。」
と言って終わったでしょ。

石田部長
石田部長

そうは言っても、社長や
相談役にあの態度は良くない。

石田部長
石田部長

社長とケンカをしても
負けて辞めることになるのは
結局、お前だからな。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

……はぁ。

石田部長
石田部長

副社長と何の約束を
したのか知らないが!
いい気になるなよ。

INNER VOICE(心の声)
ゆういち

は?なぜここで
副社長の名前が
出てくるんだ……?

……なるほど。そういうことか。
私が筋を通した物言いが
できるのは、裏で
「副社長のバックアップ」が
あるからだと勝手に勘繰って
いたわけだ。

どこまでもいっても、
彼らは派閥や政治の枠組みでしか
他人の行動を測れないらしい。
SUSPICION
ゆういち(私)
ゆういち(私)

は?なんで副社長が
出てくるんですか?

石田部長
石田部長

いや、
副社長から電話があって
「なんか、揉めたんですか?
上手にまとめて下さいよ。」
って笑いながら連絡が
あったからだ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

知りませんよ。
社長が愚痴ったんじゃ
ないですか?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

むしろ、こっちは
関わりたくないから
一切連絡とってないです。

不機嫌だった石田部長の表情が、
フッと緩むのを感じた。

だが、その目はまだ笑っていない。

石田部長
石田部長

……。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

あと、例の作業費倍増の件、
ただ反対するのもアレなんで、
一応、お客さんにヒアリング
したので報告しますね。

⚠️ CUSTOMER’S WARNING(顧客の警告)
  • 作業費が倍になったら、
    もう仕事は出せない。
  • ゆういちさんが担当している
    間だけのお付き合いだね。
  • 経営層がそんな素人みたいな
    こと言って、会社大丈夫か?
  • 企業努力でも何でもない、
    ただの詐欺師の会社だよ。
  • 社長はもう82だろ?
    いい加減辞めた方がいい。
  • そんな会社見限って、
    うちの会社においでよ。
――そう、淡々と告げた。
綺麗事抜きの、
顧客の「本音」だ。
WARNING
ゆういち(私)
ゆういち(私)

お客さんだって、予算内で
やりくりしてるんです。
金額が跳ね上がれば、発注を
躊躇するのは当たり前ですよ。

石田部長
石田部長

……。

石田部長
石田部長

それについては、
社長も「進め方を
間違っていた。」
と言っていただろう。

石田部長
石田部長

別にお前を責めている
わけじゃないのに、
なぜそんな態度になるんだ?

ゆういち(私)
ゆういち(私)

まず、市場価格を
大きく逸脱した
破綻した論理を、
議論の余地なく
押し付けてきたのは、
そちら側ですよ。

⚡ LOGICAL COUNTER / RETALIATION

しかも以前、部長に直接関係の
ない件で、私と社長が話を進めた時、
「俺は聞いてないから知らない。」
とへそを曲げ、
私の人間性まで非難しましたよね。

今、自分が嫌だったことと同じことを
やっているのに、よく自分の人間性は
棚に上げられるものですね。

他人の人間性を非難する前に、
ご自分のあり方を見直した方が
いいですよ。

BOOMERANG
石田部長
石田部長

っ……!

正論の直撃を受けた石田部長の顔から、
一瞬にして怒気が引いた。

自分が完全に墓穴を掘ったことに、
ようやく気づいたようだった。

石田部長
石田部長

……言いたいことは分かった。
とはいえ、このまま
社長とケンカを続けても
会社の雰囲気が悪くなるだけだ。

石田部長
石田部長

お前が折れて、
社長に謝ってくれ。

INNER VOICE(心の声)
ゆういち

は?またこちらが
折れるのか?
上の人間は間違いを
正さず、ただ下の者を
従わせて蓋をする。

いつもそうだ。
本当にこの会社は終わっている。
だが、ここで私が突っぱねたら、
お客さんやエンジニアリング課の
みんなにまで迷惑がかかる。

……組織を守るために、
また私が泥をかぶれというのか。
割り切れない理不尽のなかで、
私は激しいジレンマを抱えていた。
DILEMMA
石田部長
石田部長

「お前が役職を放棄する。」
と発言したことは、
エンジニアリング課員が
お前に対してマイナスの
イメージを持つぞ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

はぁ……。
お言葉を返すようですが、

⚖️ FACT-BASED ACCUSATION / EVIDENCE

エンジニアリング課の管理を、
あなたたちが行っていた時、
5年以上もとんでもない赤字
を叩き出していた上、無理な
仕事の取り方のせいで祝日出勤が
常態化し、挙句お荷物扱いされて
全員が仲違いしていた部署。
――それが、私が引き継いだ時の
エンジニアリング課です。

それを私達は、わずか3年でトントン
(収支均衡)まで立て直しました。

それだけの努力をしてきた
課員たちに、目の前で何度も
「トントンなんて実質赤字だ!」
と繰り返し発言したことについて、
一体どうお考えですか?

自分たちの不手際を棚に上げ、
必死に頑張っている現場を
咎めるその言動こそが、
組織における最大のマイナス要素
ではないのですか?

EVIDENCE
石田部長
石田部長

……。

石田部長
石田部長

確かにそれは、
ゆういち君の言うとおりだ。
赤字の原因は、作業者には
何の責任もないからな。

🚨 CRITICAL DENIAL / ULTIMATUM

私一人に言う分には、構いません。
ただ、前回の会議で
「みんなで仕入れを下げ、作業時間を
短縮して利益を出していこう。」と
意見を出し合ったばかりなのに、
あの発言ですよ。

口が悪いかもしれませんが、
『あんたらきちんと、
人の話を聞いてますか?』

ということです。

現場の声を無視するなら
会議の意味などありませんし、
あなたたちが、そんな対応しか
できないのであれば、
『私は管理できないから、
そちらで管理してください。』
という話です。

FAIL
石田部長
石田部長

ゆういち君の言いたいことは
分かった。ただ、社長と
森田相談役には謝ってくれ。

ゆういち(私)
ゆういち(私)

は?なんでですか?
意味わかんないですけど。

石田部長
石田部長

私から、社長が間違っていた
部分はきちんと伝える。
悪いようにはしないから、
一度頭を下げてくれ。

INNER VOICE(心の声)
ゆういち

「悪いようには
しない……」か。
その空っぽな言葉を、
これまで一体何十回
聞いてきただろう。

この人たちは結局、会社のため
でも現場のためでもない。
「自分が社長に怒られない環境」
を、ただ作りたいだけなんだ。

どこまでも透けて見える自己保身。
私は怒りを通り越して、
ただただ呆れ果てていた。
PROTECT
ゆういち(私)
ゆういち(私)

……。
分かりました。
明日にでも顔を合わせたら
謝っておきます。

石田部長
石田部長

よろしく頼む。

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■背景情報

<会社情報>

<社名>架空金属産業株式会社 社員総数50数名
営業部営業課 機械部品販売 営業 8名
営業部エンジニアリング課 機械修理・改造 技術者 5名
営業部営業管理課 営業活動の補佐
社員 5名
営業部総務課 人事・経理兼務 社員 4名
製造部製造1課 機械加工 作業者 10名
製造部製造2課 塗装 作業者 10名

<登場人物>

山田社長
山田社長

創業者
82歳
誰にでもいい顔をしたがる

山田副社長
山田副社長

山田社長の息子
製造部責任者
52歳
新しいものが好き

森田相談役
森田相談役

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

石田部長
石田部長

数少ない生え抜き社員
58歳
社長公認の「子供っぽさ」
がある感情的な性格

小林由美
小林由美

入社4年目の経理
24歳
正論を言わなくなった優等生

ゆういち(私)
ゆういち(私)

入社20年
46歳
エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業

■よくある質問(FAQ)

Q1. 経営陣から無謀な
ノルマを強行されたら、
どう対応すべきですか?
A1. 感情的に拒否するのではなく、
「責任の所在」を明確にする
記録を残してください。

理不尽な決定を強行する経営陣は、
失敗した時に全てを現場の責任に
しようとします。「指示には従うが、
目標未達成時の責任は指示を出した側に
あること」を議事録やメール等で
証拠として残してください。
これだけで、無謀な指示に対する強力な
抑止力になります。
Q2. 「人間性のいい奴」と言いつつ、
都合よく扱う上司を見抜くには?
A2. 「意見が対立した時の態度」を
観察してください。

相手が本当に人間性を尊重しているなら、
意見が食い違っても建設的な議論が
できます。しかし、「簡単に癇癪を起すな」
「課長をやめるなんておかしい」
と相手を人格否定するような言葉で
支配しようとする場合、
それは人間性ではなく「自分に従う駒」
を求めているだけです。
Q3. 理不尽な会社を辞めるべき
「本当のタイミング」とは?
A3. 「会社のため」ではなく
「自分のスキルのため」に働けない
と悟った時です。

どんなに実績を上げても経営陣の
思い付きで全てを台無しにされる
環境では、成長は望めません。
組織に殉じるのではなく、会社を
「自分の市場価値を高めるための踏み台」
と割り切り、いつでも環境を変えられる
準備が整った時こそが、辞めるべき
タイミングです。