■前回のあらすじ
『名前のない内定と、動き出した歯車』
先日の食事会で聞かされたのは、
この会社の未来を左右する密約だった。営業畑一筋の社長が、息子の副社長へ椅子を譲る
事業承継の話。
だが、製造畑出身の副社長は、社長を引き受ける
条件として驚くべき要求を突きつけた。
それは、「私の営業部長就任」だった。そして、今日その回答をするべく、
私は社長室に呼ばれた。
■第2話:組織の機能不全と不穏な同意
社長室の重厚な空気の中、私は山田社長、
そして森田相談役と対峙していた。

……さて、先日の話だが。
来期の営業部長になってくれるのか
君の正式な返答を聞かせてほしい。

副社長が私を評価して
くださっているのであれば、
そのご期待に応え、
お受けいたします。

そうか、そうか。
受けてくれるか。
ありがとう。

では、君が営業部長として
この会社をどう変えるのか
来期の構想や考え方を、
改めて詳しく聞かせてほしい。

先に断っておきますが、
私は、大きく変える
つもりはありません。

今の業務の問題点を一つ一つ
洗い出し、改善していくことを
継続していくだけです。

今流行りの、
「カーボンニュートラル」や
「AI」や「DX」など
テーマを決めて活動したほうが
いいのではないか?

外部への見栄えもいいし、
活気が出るだろう。

……それらは膨大なコストと
時間を要する割に、
現在のお客様が求めている
ニーズに合致しません。

ですから、今はやりません

……そうか。
君は相変わらず、
堅実すぎるというか、
夢がないな。

(すごく不服そうだな・・・。
中身を伴わない派手な活動を
しても、仕方ないのに。)

……今は、足元を固める時です。
まずは、現場の真実を
知ってください。

分かった。
続けてくれ。

念のため確認ですが、
決定事項は、社長から
石田営業部長に説明して
納得してもらってくださいね。

そこは約束しよう。

では、説明していきます。
社長は目を細め、深く頷く。

まず、私が考える会社の
問題点は、
■営業部の問題点:
「居心地の良さを守る管理職」と
「改善を望む若手社員」の
対立から生まれた『負のエネルギー』の蔓延。
■原因:
・「努力目標」の容認:
「改善を望む社員」が利益を生む
具体的な行動を求めても、
「居心地の良い管理職」は
「目標は努力目標だから」という
曖昧な理由で行動の責任を放棄している。
・管理の機能不全:
「何をすれば会社にとって
正しいのか分からない」という
不安(ルール不在のストレス)が、
若手社員の不満と不信を増幅させている。
・変化を嫌う企業風土:
改革案が出ても、「居心地の良い管理職」は
変化を拒否し、「保身」のために現状維持を
主張します。これが「改善を望む社員」
との間で、対立を決定的に深刻化させている。
■結論:
「責任と規律の欠如が生んだ、組織の機能不全」

と考えています。

目標を努力目標だと言っている
管理職は、大問題ですね。

若手社員が私に
『将来が不安で仕方がない。』
と相談しに来ています。

問題点は分かった。
私も感じている。

では、どうしたらいい。

解決策も考えていますが、
あくまで私の仮説なので
一度、社長や相談役が
営業部の全社員に
ヒアリングしてみては
いかがでしょうか。

たしかにそうだな。

ただ、
私が直接話をしても
話をしてくれないかも
しれないなぁ。

そうだ、
森田相談役、一度全員の
話を聞いてほしい。

……ふむ。
中立の私が聞きに行きましょう。

その方が、本音が出るでしょうから

(社内の問題点が
社長と共有できれば
話も早くなるだろう。)

分かりました。
では、その結果も含めて
来月に話をしましょう。

うむ。
そうしよう。

何度も確認するようで
申し訳ありませんが、
決定事項は、社長から
石田営業部長に説明して
納得してもらってくださいね。

分かった、分かった。
そこは、社長の私に任せて
くれれば大丈夫だ。

安心してもらっていい。

では、社員の皆さんと
話が出来たら、
報告します。

よろしくお願いします。
■背景情報
<会社情報>
| <社名>架空金属産業株式会社 社員総数50名 | ||
| 営業部営業課 | 機械部品販売 | 営業 8名 |
| 営業部エンジニアリング課 | 機械修理・改造 | 技術者 5名 |
| 製造部製造1課 | 機械加工 | 作業者 10名 |
| 製造部製造2課 | 塗装 | 作業者 10名 |
<登場人物>

創業者
82歳
誰にでもいい顔をしたがる。

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

入社20年
46歳
エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業