■前回のあらすじ
無策な社長と改善詐欺
責任から逃げ続ける山田社長。
既得権益を守る石田営業部長への対策も、
相談役への責任転嫁で誤魔化そうとする。
社長の「善人面」が招く地獄の会議を前に、
ゆういちは組織への宣戦布告を決意する。
■正論で既得権益を破壊。逆算型目標で炙り出す組織の膿
前回の食事会から数日。
何の説明もないまま、
私は定例の営業ミーティングの席にいた。
室内には、中身のない担当者の報告と、
それに対して興味なさげに形式的な質問を
ぶつける上司の声だけが虚しく響いている。
誰もが「早く終わればいい」という空気を
出していた会議が終盤に差し掛かったその時、
山田社長が重い口を開いた。

これで、営業ミーティングは
だいたい終わったかな?

そうですね。
だいたい終わりました。

何かありますか?

おぉ。そろそろ来期の
目標数字の発表をしようと
思ってな。

森田相談役から
発表をお願いします。

分かりました。

社長と私で来期の目標を
算出しました。

ゆういちさんには、
その話し合いに参加していただき、
資料をまとめてもらったので、
まずはその発表を聞いてください。

!!!。
……。
刺すような視線が、私の横顔に突き刺さる。
石田部長の顔が、みるみるうちに歪んでいく。

(石田部長が「初めて聞いた。」
というような顔をしている。
社長、あんなに『任せておけ』と
言っておきながら、結局何も
伝えていなかったのか?)
逃げ場のない会議室に、不穏な空気が充満する。

……では、発表を始めます。

おう、よろしく頼む。
説明スライドを出す。

まず、
営業部全体の目標設定ですが、
算出方法をかえました。

以前の目標設定は、
以前の我が社では、
こんな会話が当たり前でした。
「下回ったし、来年は現状維持で」
実績に「気合」を乗せただけの、
根拠なき積み上げ。
結局、『なぜその目標になったのか?』
誰も持っていませんでした。

……。

なので今回は、感覚的な
目標設定を避け、
『将来の予期せぬ事態』に 会社が備え、
社員の雇用と未来を 守るために必要な
『会社の体力』を確保する――。

???。

補足すると、この業界で
この規模の会社だと、
営業利益率は一般的に5%で
優良だと言われています。

しかし、我が社はあえて、
営業利益率6%を
目標数字にしました。

今までは2%程度だったが、
賃上げや新入社員など
将来のことを考えると、
6%を目指す必要がある。

……。

問題なければ営業部の目標設定は、
このように行います。

具体例を頼む。

具体例だと、
(粗利) 3億0,000万円
(固定費等) ▲ 2億2,800万円

ちなみに今年は、
ゆういちさんのグループが
かなり頑張ってくれているので
4.5%で着地する見込みです。

この目標計算方法に異論が
ある人は手を挙げてください。
そして、目標数値の管理を
売上から売上総利益に変更します。

売上より利益を重視していく
ということだね。

……。

いきなり営業利益率が
6%と言われて
「難しい」と思う人が
いるかもしれないが、
会社としては必要だからな。

みんな仲良くやってほしい。
それが社員のためにもなるしな。

……。

では、次にグループの目標設定だが
今年から、営業課を3グループに分け、
活動してもらっているが、
各々が別々に活動しており
チームワークが全く見えてこない。

そのため、グループ単位で
目標管理をしてもらう。
グループ長達がざわつき始めた。

口で説明しても難しいと思うから、
ゆういちさんから資料を交えて
説明してもらう。

では、頼みます。
次の説明スライドを開いた。

グループ毎の目標算出方法は、
「階層別荷重配分」で
算出しようと思います。
「階層別荷重配分ってなに?」
という声が聞こえる。

現在営業部には、社員が
役員を含め25名います。
それを営業の役職に応じて、
負うべき責任の重さを
数値化で明確にします。

簡単に説明すると、

(そうか、小林さん辞めるから
25人体制になるんだったな。)

役職あたりの
目標売上総利益額は、
以下の通りです。
※目標売上総利益(1人分):1,200万円/年で算出
10人分 × 1,200万 = 1億2,000万円
9人分 × 1,200万 = 1億800万円
6人分 × 1,200万 = 7,200万円
必要な「最低限の年間総利益」

補足すると、
現状の維持ではなく「未来への投資」を
前提としています。
現在募集中の「新規採用3名」のコスト、
および「既存社員の給与改定(UP)」を
すべて織り込んでいるため、
本来の年間800万円程度ではなく、
余裕を持たせた「年間912万円程度」の
高水準で見込んでいます。
第1グループ長から、異論が上がる。
「10人分って!
目標数字が上がるのなら人はいらない。」

えっ?
増員を要望されたのは
そちらですよ。

人が増える以上、
販売管理費が増えるので
目標数字が増えるのは、
当然の話ですよ。
「……。」
第1グループ長は、
口をパクパクさせたまま黙り込んだ。
結局、彼が欲しかったのは「戦力」ではなく、
自分の数字を肩代わりしてくれる
「駒」だったのだ。

このように1~3グループで
目標数字をきっちり決めるので
グループ内の各担当者毎に
目標を割り振ってください。
これまでは部長が個人の数字を決めていた。
だからこそ、グループ長は
「私が決めた数字ではない」という言い訳
で責任から逃げることができていた。
配分をグループ長に委ねることで、
「逃げ道」を塞ぐと同時に、
伸びない顧客を若手に押し付ける不条理
を、チームの責任として解消させる
ための狙いもある。

先ほどの話にも出ましたが、
ゆういちさんのグループは、業務の特性上
「売上総利益率」が高いため、
以下の合算で算出しています。
- ゆういち: 実績と期待値の 5人分
- 技術員: 営業兼任として 1人分
- 合計: 6人分(7,200万円)

私からの発表は以上です。

今までの内容で、
何か質問はありますか?
静かに石田部長は手を挙げた。

(おっ!
とうとう口を開くのか?)
そう思い、私は若干身構えた。

おぉ、石田さんどうぞ。

……いろいろありますが、
この場では差し控えます。

後で相談役に、個人的に
質問させていただきます。

(……?
なんだそれ。)

大枠の数字は決まっていますが、
正式な数字を決定するので、
改めてグループ長に連絡します。

その後、目標数字を
グループ内で割り振ってください。
お疲れさまでした。

(石田部長、質問があれば、
この場ですればいいのに。)
なにはともあれ、
とりあえず裁判は、終わった。
この改善により、若手の不満が
少しでも解消されることを祈った。
🔍 その「目標設定」に潜む罠
-
✔
「前年踏襲」という名の思考停止で、
根拠のない数字を現場に押し付けている。 -
✔
「みんな仲良く」という精神論で、
不条理な格差や逃げ道を放置している。 -
✔
「個人的に相談」という密室の交渉が、
透明性のある組織改革を阻害している。
これらに心当たりがあるなら、
それは公平な「評価」ではなく、
特定個人の『既得権益維持』です。
■背景情報
<会社情報>
| <社名>架空金属産業株式会社 社員総数50名 | ||
| 営業部営業課 | 機械部品販売 | 営業 8名 |
| 営業部エンジニアリング課 | 機械修理・改造 | 技術者 5名 |
| 営業部営業管理課 | 営業活動の補佐 |
社員 5名 |
| 営業部総務課 | 人事・経理兼務 | 社員 4名 |
| 製造部製造1課 | 機械加工 | 作業者 10名 |
| 製造部製造2課 | 塗装 | 作業者 10名 |
<登場人物>

創業者
82歳
誰にでもいい顔をしたがる

山田社長の息子
製造部責任者
52歳
新しいものが好き

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

数少ない生え抜き社員
58歳
社長公認の「子供っぽさ」
がある感情的な性格

入社4年目の経理
24歳
正論を言わなくなった優等生

入社20年
46歳
エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業
