■前回のあらすじ
『錆ついた組織、加速する違和感』
現場の声を拾い上げる「地上戦」の要と
なるはずだった全社員へのヒアリング。
しかし、約束の1ヶ月が過ぎても森田相談役が
動く気配はなかった。焦燥感に駆られ進捗を問う私に対し、
下された判断は「ヒアリングの中止」だった。それは、私が改善の土台として最も必要と
していた「客観的な事実」を奪うこと
を意味していた。社長は言う。
「みんなで仲良く協力してほしい」と。
実態を無視したその言葉は、
私を縛る、最悪の『呪い』となって響く。現場という確かなハシゴを外されたまま、
自らの仮説だけを武器に、独りきりの
プレゼンへ向かうことになった。
■第4話:外されたハシゴと降りれないプレゼン

(はぁ……、
ハシゴを外されたのに
このままプレゼンを進めて
大丈夫なのだろうか……。)
現場の声という「事実」を失ったまま、
私は大型モニターの前に立つ。
実体のない空中戦が始まろうとしていた。

説明を始める前に、
一点お断りさせてください。

これからお話しするのは、
会社への『批判』ではなく、
改善のための『現状把握』です。
耳の痛い話も含まれますが、
そこを混同せずに聞いてください。

分かった。
約束しよう。

……では、
今後の組織改善案について、
ご説明いたします。

よろしく頼む。

お願いします。

私が考える改善案は、
以下の通りです。
■課題点
「責任と規律の欠如が生んだ組織の機能不全」
■改善案
公平性を保つ「規律の再構築」で、
負のエネルギーを生産力に変える。
●公平性を保つ「規律の再構築」
1.公平性の土台:役割に応じた責任の正当化
・努力目標の排除
・管理職責任の数値化
2.公平性の実行:行動量と結果の可視化
・行動量の計測
・貢献度の可視化
・報奨による還元
■公平性は「行動量の公正な計測」と
「還元制度」によって担保する。

もう少し、
詳しく説明してくれ。

まず、
1.公平性の土台
・努力目標の排除
というのは、具体的に
なにをするつもりですか?

はい。今までの目標設定は、
単なる昨対比の積み上げで
根拠の薄い「どんぶり勘定」でした。
それを、次のように再定義します。
・努力目標の排除
「将来の予期せぬ事態」に会社が備え、
社員の雇用と未来を守るために必要な
「会社の体力」を確保する――。
そのために「最低限の営業利益率」から
目標を逆算します。

根拠は、感情ではなく
算出された「事実」です。
ここには、努力すれば
報われるといった精神論が
入り込む余地はありません。

主観を排除し、
逃げようのない客観性で
外堀を埋めるわけですか。

達成すべきかどうかの
議論ではなく、
達成するための手段の議論に
集中せざるを得なくなりますね。

そうです。

……理論は分かった。
では、具体的にその
「最低限の営業利益率」は、
どれくらいに設定する予定だ?

ここ数年は2%未満だと
思われます。
それを6%に引き上げます。

正確な内部数字は
開示されていませんので、
公表されている決算情報から
推理しました。

違っていたら訂正願います。

ここ数年は、2%未満なのは
間違いない……。
……なるほど。6%か。

……まあ、来期の賃上げや、
今後の採用計画を考えると、
6%という数字は妥当ですね。

それくらい目指さないと、
会社として、生き残ること
すら難しくなりますよ。

業種によって差はあるだろうが、
この会社の規模、従業員数を
守っていくなら、5%以上の
営業利益率は必要だな。

片手間で届く数字ではないが、
会社を永続させるための
「責任の重さ」を数字にすると、
確かにそれくらいになるな。

(ここまでの説明は
納得してもらえた。)

次は
・管理職責任の数値化
についてです。

管理職の責任をどうやって
数値化するんだ?

次の
・管理職責任の数値化
について教えてください。

現在、
営業課は3つのグループで
構成されていますが、
各グループ目標を管理職責任の
数値化によって決定します。
・管理職責任の数値化
目標設定の根拠を、
『前年比からの算出』という
慣習から切り離します。
成果を出した者の目標を
ただ積み上げるのではなく、
役職が上の者ほど、目標への
「コミット比率」を高く設定します。
管理職は単なる管理ではなく、
自らが高い数字の責任を負う。
「階層別の加重配分」を設定し、
組織に緊張感を持たせます。

どうやって
「階層別の加重配分」
を設定するんだ?

極めて単純です。
目標総額を役職の階層に
応じて「目標の重み」に
傾斜をつけます。

「役職が高い=
より多くの利益責任を背負う」
ということですね。

その通りです。

「去年は景気が良かったから」
といった言い訳を無効化
してしまいますね。

成果を出した社員ほど
翌年の目標が跳ね上がり、
疲弊していくのを
防ぐ狙いもあります。

確かに、公平ですね……。

具体的には、グループ長と
副グループ長でどれほどの差を
つけるつもりですか?

計算してみないと
分かりませんが、
・グループ長=4人分
・副グループ長=3人分
・リーダー=2人分
・一般営業社員=1人分
と考えています。


課長級のグループ長が
1人で4人分の数字に
責任を持つのは、
なかなか重いですね。

営業が稼ぐ数字は、
自分たちのためだけに
あるのではありません。

現場を支える事務、経理、総務……
彼らの給料を誰が稼ぐのか。
その自覚を、管理職にこそ
取り戻してほしいんです。

……なるほど。
間接部門のことを意識させる
ためにも、あえて管理職の
負荷を最大化するわけか。

……確かに。
これは管理職が言い訳を
する余地がないですね。

グループ長が1人、
副グループ長が1人、
一般営業社員が2人の
グループ構成の場合だと……、

目標が、4人分+3人分+1人分+
1人分。合計で社員9人分が
グループの目標数字
になるということか。

その通りです。

しかも、人を増やそうとすれば、
グループの目標数字が
さらに上がるわけか……。

安易に「人を入れれば解決する」
という発想すら、この仕組みは
封じ込めてしまいますね。

少数精鋭で、個々の「力」を
最大化せざるを得ない状況を
作ります。

なるほど……。
よく考えられていますね。

……ただ、管理職から
相当な突き上げを食らう
可能性があるぞ。

それについては、私が
エンジニアリング課の
課長として5人分の
責任を持つつもりです。

自分が一番重い責任を
とることで、他の管理職の
反発を防ぐわけですね。

そうだった。
君のエンジニアリング課は、
営業課からの依頼をこなす
だけではなかったな。

その通りです。
エンジニアリング課は、
単なる作業部門ではなく、
特定のお客様に対しては
技術提案から営業までを
一貫して行っています。

ふぅ、
1.公平性の土台:
役割に応じた責任の正当化
という話だけで、
だいぶ時間を使ったな。

そうですね。
次の、
2.公平性の実行:
行動と結果の可視化
は、より具体的な話に
なってきます。

……10分ほど
休憩を挟みませんか?

おぉ、そうしよう。
■背景情報
<会社情報>
| <社名>架空金属産業株式会社 社員総数50名 | ||
| 営業部営業課 | 機械部品販売 | 営業 8名 |
| 営業部エンジニアリング課 | 機械修理・改造 | 技術者 5名 |
| 製造部製造1課 | 機械加工 | 作業者 10名 |
| 製造部製造2課 | 塗装 | 作業者 10名 |
<登場人物>

創業者
82歳
誰にでもいい顔をしたがる。

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

入社20年
46歳
エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業