■前回のあらすじ
『錆ついた大人の約束、動かない歯車』
社長室の重苦しい空気の中、私は次期社長である
副社長からの条件を受け入れ、営業部長への
就任を承諾した。同時に私は、現在の組織が抱える病理を
突きつけた。
目標を「努力目標」とすり替え、責任を放棄して
保身に走る管理職たち。
そして、それによって疲弊し将来を不安視する
若手社員の絶望。
私の指摘に対し、森田相談役は
「中立の立場で現場のヒアリングを行う」
と申し出た。
一見、私の覚悟が経営陣を動かし、
改革がスムーズに動き出したかのように見えた。だが、この「同意」の裏に潜む不穏な気配に、
私はまだ気づいていなかった。
■第3話:期待の期限切れと消えた約束

(う~ん。
若手に声をかけても、
相談役のヒアリングなんて、
誰一人受けていない。
やらないつもりなのかな。)
約束の1ヶ月が過ぎようとしていた。
しかし、森田相談役が現場を訪れることはなく、
社内には停滞した空気が流れていた。
私は意を決して、社長と相談役に進捗を尋ねた。

社長・相談役、すみません。
全社員へ実施するヒアリングの
お話から、1ヶ月経ちますが
進捗はどうなっていますか?

あの後、社長と話をして
ヒアリングの実施を
一旦中止することにしたよ。

えっ!
なぜですか?

(悪い予感が当たってしまった。)

私も社長も忙しくて
まとまった時間が
とれなかったんだ。

それに今、下手に全員の話を
聞いて回ると、現場に余計な
混乱が生じる。
それは会社の本意ではない。

いや、それは話が違いますよ。

私の考える『問題点の仮説』が
間違っていないかの確認と、
問題点の共有・解決をして
いくために、まず実態を
聞くはずでしたよね?

もしヒアリングをして、
不満が噴出してみろ。
提案した君が、
周囲から「あいつが余計な
ことを言わせたんだ」
と悪者になる。

そうなると、
君が営業部長になった時
誰も君の言うことを
聞かなくなるぞ。

我々は、君をそんな立場に
立たせたくないんだよ。

(……嫌われることを覚悟で、
この話を受けたのに。)

ヒアリングをせずとも、
君の仮説が正しいことは
私も分かっている。

今は時期が悪い。
君が営業部長になってから、
うまくやってくれればいい。

(……うまくやる?
問題を表面化させず、
実態の共有すら拒んで、
どうやって解決しろと言うんだ?)

では、これからどのように
進めていけばいいですか?

みんなで仲良く協力して
会社を良くしてほしい。

(は?ますます意味が分からない。
ヒアリングを拒否したくせに、
どうやって団結しろと言うんだ。)

(やっぱり、ズレてるなぁ。)

とりあえず、改善案と
今後の計画を出して
くれればいい。

構想案はできているんだろ。

まあ、資料は出来てます。

では、『私の仮説が正しい』と
認めていただいたと考えれば
いいんですね。

それでいい。

今後の構想を教えてほしい。

(『ヒアリング結果』のない
改善案は、私の独断専行として
石田営業部長たちの格好の
攻撃材料になるだろなぁ。)

(……とはいえ、
私の仮説で進めていいと、
社長の言質は取った。
そう自分に言い聞かせよう。)

分かりました。
では、来週話させていただきます。

おお、分かった。
よろしく頼むよ。

(仲良く、か。
……私を縛る『呪い』の
言葉だな。)
■背景情報
<会社情報>
| <社名>架空金属産業株式会社 社員総数50名 | ||
| 営業部営業課 | 機械部品販売 | 営業 8名 |
| 営業部エンジニアリング課 | 機械修理・改造 | 技術者 5名 |
| 製造部製造1課 | 機械加工 | 作業者 10名 |
| 製造部製造2課 | 塗装 | 作業者 10名 |
<登場人物>

創業者
82歳
誰にでもいい顔をしたがる。

事なかれ主義
66歳
大手企業の元役員

入社20年
46歳
エンジニアリング課課長
エンジニアリング課の営業