パイプにめっきを
かけたいのですが、
硬質クロムめっきと
ニッケルめっきでは
どちらが良いですか?
目的はなんですか?
防食が目的です。
ちなみに、パイプの
寸法精度は必要ですか?
内径の寸法精度は
ほしいです。
では、
『無電解ニッケルめっき』
の方が良いと思います。
なぜですか?
硬質クロムめっきは、
電気めっきなので端や角など
電気が流れやすいところが
厚くなる傾向があり、
複雑な形状だと、
均一にめっきを施すことが
難しいんです。
電気めっきだと
膜厚のばらつきが
大きくなるんですね。
そうなんです。
パイプの内面など
電気が流れにくい場所だと
めっきの膜厚が
薄くなる傾向があり、
細く長いパイプだと、
内面にめっきが全く
付かない場合もあります。
なるほど。
硬質クロムめっきは、
無電解ニッケルめっきより
耐摩耗性はいいですが、
寸法精度や耐食性が
欲しい場合は、
無電解ニッケルめっき
の方が良いと思います。
良く分かりました。
では、
無電解ニッケルめっき
でお願いします。
という、やりとりがありました。
今回は、
『ニッケルめっき』について
簡単にわかりやすく
紹介していきたいと思います。
ニッケルとは
そもそも、
『ニッケルめっき』
ってなんですか?
私の分かる範囲での
説明になりますが
大丈夫ですか?
よろしくお願いします。
ニッケルめっきの説明の
前に、『ニッケル』から
説明していきます。
お願いします。
まずニッケルは、
レアメタルの一つで、光沢のある
銀白色をした金属元素のことです。
レアメタルって
なんですか?
そうですね・・・。
どうかしましたか?
レアメタルって実は、
国際的に統一された定義がありません。
えっ!
そうなんですか?
そうなんです。
ただ一般的には、
「地球上の存在量が稀であるか、
技術的・経済的な理由で抽出困難な
金属」のうち、工業需要が現に存在する
(今後見込まれる)ため、安定供給の
確保が政策的に重要であるもの
とされています。
レアメタルのリサイクルに係る現状
参考:経済産業省
ニッケルは、
存在量が少ないんですか?
ニッケルは、
地球上で5番目に豊富な元素と
言われており、多くの地域で
産出されています。
そうなんですか!
じゃあ、
採掘が難しいんですか?
そうなんです。
ニッケルは、採れるところが
地球の中心部に近いところにあり、
採掘が困難なんです。
なるほど。
ちなみに日本では、
備蓄制度を設け、代替が困難で
供給国の偏りが著しいレアメタルは、
国内基準消費量の60日分を目標に
備蓄されています。
すごいですね。
ニッケルって、どんな
特徴があるんですか?
身近なところでは
50円玉がニッケル100%でできていて
- 1,453℃と融点が高い
- 鉄鋼より酸化しにくい
- 合金添加元素に使用される
- めっき形成が比較的容易
- 柔軟性がある
- 強磁性
など多くの特徴があります。
50円玉ってニッケル
だったんですか!
それだけじゃないですよ。
一般的なステンレス鋼は、
ニッケルとクロムと鉄の合金です。
ステンレスにもニッケルが
添加されているんですね。
このように
ニッケルは
比較的硬度が高く、耐食性に
優れているため、めっきに
利用されているんです。
なるほど。
良く分かりました。
-
ニッケルはレアメタルの一つで、
光沢のある銀白色をした
金属元素のこと。 -
レアメタルは国際的に統一された
定義がなく、一般的には「地球上の
存在量が稀であるか、技術的・
経済的な理由で抽出困難な金属」
と言われている。 -
ニッケルは、地球上で5番目に
豊富な元素と言われており、
多くの地域で産出されている。 -
ニッケルは、採れるところが
地球の中心部に近いところに
あり、採掘が困難。 -
日本では備蓄制度を設け、代替が
困難で供給国の偏りが著しい
レアメタルを国内基準消費量の
60日分を目標に備蓄している。 -
50円玉はニッケル100%で
できていて、「1,453℃と融点が
高い」「鉄鋼より酸化しにくい」
「合金添加元素に使用される」
「めっき形成が比較的容易」
「柔軟性がある」「強磁性」
など多くの特徴がある。
-
ニッケルは比較的硬度が高く、
耐食性に優れているため、
めっきに利用されている。
ニッケルめっきとは
ニッケルが比較的硬く
耐食性の高いレアメタル
であることは分かりました。
次は、『ニッケルめっき』
について教えて下さい。
分かりました。
ニッケルめっきは
大きく分けて、
- 装飾ニッケルめっき
- 機能ニッケルめっき
に分類されます。
装飾や機能とは、
どういうことですか?
装飾めっきと
機能めっきは、
JIS規格で
4003 装飾めっき
製品に美観を付与するために
行うめっき。
引用:JIS H 0400 : 1998
電気めっき及び関連処理用語
4004 機能めっき
めっき皮膜そのものの特性を
利用するために行うめっき。
引用:JIS H 0400 : 1998
電気めっき及び関連処理用語
と定義されており、
装飾ニッケルめっきの
多くは、
鉄鋼や銅合金・プラスチックに
クロムめっきや金・銀めっき
を行うための、下地めっき
として使用されています。
装飾ニッケルめっき
といっても、基本的には
下地めっきなんですね。
そうなんです。
表面にめっきができない
理由があるんですか?
表面にできない
わけではないですが、
ニッケルめっきは、
鉄鋼より酸化しにくいですが、
長時間、空気中に放置しておくと
徐々に酸化し変色していきます。
そうだったんですね。
なので、
変色させないために、
ニッケルめっきの上にクロムめっきや
金・銀めっきをかけるんです。
上にかけるめっきが、
ニッケルめっきの
保護皮膜になるんですね。
ちなみに、最初から
硬質クロムめっきでは
ダメなんですか?
硬質クロムめっき
って実は、
小さなクラック(ひび割れ)が多い
めっきなので、クラックを通じて
様々な腐食要因が素材に浸透し、
腐食を引き起こします。
下地にニッケルめっきを
施すことで、
クラックを減らすことが
出来るんですね。
あれ?そういえば、
先ほどプラスチックにも
めっきが出来るって
言ってませんでした?
言いましたよ。
プラスチックにめっきって
どうするんですか?
実は、
ニッケルめっきには、
電気を使って行う
『電気ニッケルめっき』と
電気を使わない
『無電解ニッケルめっき』
があります。
へー。
電気ニッケルめっきは、
金属などの素材に電気を通し、
表面にめっき処理を行います。
えっ?
プラスチックって
絶縁体ですよね!
そうなんです。
なので、
電気を使わない
無電解ニッケルめっきを施し、
薄いニッケルの層をつけることで
絶縁体にも導電性が付与され、
電気めっきが可能になります。
無電解ニッケルめっきで
薄い導電皮膜ができるから、
プラスチックのような
絶縁体にも電気めっきが
可能になるんですね。
-
ニッケルめっきは大きく分けて、
「装飾ニッケルめっき」と
「機能ニッケルめっき」に
分類される。 -
装飾ニッケルめっきの多くは、
クロムめっきや金・銀めっき
を行うための、下地めっき
として使用されている。 -
ニッケルめっきは長時間、
空気中に放置しておくと
徐々に酸化し変色する。 -
表面を変色させないために、
ニッケルめっきの上に
クロムや金・銀めっきをかける。 -
ニッケルめっきには、電気を
使って行う「電気ニッケルめっき」
と電気を使わない
「無電解ニッケルめっき」がある。 -
絶縁体に電気を使わない
無電解ニッケルめっきを先に
施すことで導電性が付与され、
電気めっきが可能になる。
電気ニッケルめっきとは
ニッケルめっきは、
装飾用・工業用と
幅広く使われている
めっきなんですね。
そうなんです。
次は、
『電気ニッケルめっき』と
『無電解ニッケルめっき』
の違いを教えてください。
分かりました。
それでは、
電気めっきから
説明していきます。
そもそも、
電気めっきは、
JIS規格で
1011 電気めっき法
金属又は非金属表面に金属を
電気化学的に析出(電着)
させる方法。
引用:JIS H 0400 : 1998
電気めっき及び関連処理用語
と定義されています。
電気エネルギーを使って
表面にニッケル層を
形成させるから、
電気ニッケルめっき
なんですね。
そうです。
そして、
電気ニッケルめっきには、
- 光沢ニッケルめっき
- 半光沢ニッケルめっき
- 無光沢ニッケルめっき
などの種類があります。
どんな違いが
あるんですか?
光沢ニッケルめっきは、
電着応力を減少させる硫黄化合物を
含んだ光沢剤とレベリング作用をもつ
光沢剤を添加して行うニッケルめっき
で、クロムめっきなどの下地めっきに
良く使用されます。
電着応力って
なんですか?
電着応力とは、
めっきを施すことによって
発生する引張や圧縮などの
応力が発生することです。
めっき皮膜による反りや
変形などのことですね。
では、レベリング作用
ってなんですか?
レベリング作用は、
素材の凹凸を平滑化
させる作用のことです。
なるほど。
この二つの光沢剤を
添加することで、
平滑で光沢のある
光沢ニッケルめっきが
できるんですね。
そうなんです。
ただ、
光沢ニッケルめっきは、
微量の硫黄が含まれているので
次に出てくる半光沢ニッケルめっきや
無光沢ニッケルめっきに比べると
耐食性が劣ります。
では今言われた、
半光沢ニッケルめっき
について教えて下さい。
半光沢ニッケルめっきは、
硫黄を含む光沢剤を使用しないので、
光沢ニッケルめっきより光沢は
ないですが、耐食性は優れています。
光沢ニッケルめっきより
耐食性が良いんですね。
なので、
光沢ニッケルめっきの
下地めっきとして、
使用されたりします。
半光沢ニッケルめっきの
上に、光沢ニッケルめっきを
施すんですか?
そうです。
このように耐食性を向上させるため、
半光沢ニッケルめっきの上に、
光沢ニッケルめっきを施すことを、
『ダブルニッケルめっき』と言います。
へー。
ちなみに、
『トリプルニッケルめっき』
というものもあります。
トリプルまで
あるんですね。
最後に
無光沢ニッケルめっきは、
光沢剤を使用しないので、
純ニッケルに近い性質をもった、
光沢のない外観になっています。
なにに使われて
いるんですか?
そもそもニッケルめっきは、
光沢を出すほど、硬くなる
性質をもっています。
そのため、
無光沢ニッケルめっきは、
柔軟性が高く耐食性に優れているため
機能めっきとして電子部品などに
使用されています。
そんな性質が
あるんですね。
-
電気ニッケルめっきは、
金属又は非金属表面にニッケルを
電気化学的に析出させる方法。 -
電気ニッケルめっきには、
「光沢ニッケルめっき」
「半光沢ニッケルめっき」
「無光沢ニッケルめっき」
などの種類がある。 -
光沢ニッケルめっきは、
電着応力を減少させる光沢剤と
レベリング作用をもつ光沢剤を
添加して行うニッケルめっきで、
下地めっきに良く使用される。 -
半光沢ニッケルめっきは、硫黄を
含む光沢剤を使用しないので、
光沢ニッケルめっきより光沢は
劣るが、耐食性は優れている。 -
半光沢ニッケルめっきの上に、
光沢ニッケルめっきを施すことを、
「ダブルニッケルめっき」と言う。 -
無光沢ニッケルめっきは、
光沢剤を使用しないので、
純ニッケルに近い性質だが
外観に光沢がない。 -
無光沢ニッケルめっきは、
柔軟性が高く耐食性に優れて
いるため、機能めっきとして
電子部品などに使用されている。
無電解ニッケルめっきとは
では、
『無電解ニッケルめっき』
についても教えて下さい。
まず、
無電解めっきは
JIS規格で
6001 無電解めっき法
外部電源を用いずに、金属を化学的に
還元析出させる方法。
引用:JIS H 0400 : 1998
電気めっき及び関連処理用語
と定義されています。
つまり、
無電解ニッケルめっきとは、
電気を使わず化学反応によって
ニッケルめっきを施す
めっき法のことなんですね。
そうです。
有名なところで
カニゼンめっき
があります。
電気ニッケルめっきと
比べてなにが違うんですか?
無電解ニッケルめっきは、
電気ニッケルめっきのように、
電位差や電流密度のムラを
気にする必要がないので、
複雑な形状でも、均一な厚さの
めっき皮膜を得ることができます。
均一なめっき皮膜で
覆われるから、
寸法精度が高いんですね。
しかも、
導電性のない素材であっても、
表面に触媒を付与すれば、
めっきすることが可能です。
先ほど言っていた、
プラスチックにも
めっきが可能
というやつですね。
他には、
硬度が高いので耐摩耗性に
優れています。
電気ニッケルめっきに比べ
無電解ニッケルめっきって
良いとこだらけですね。
そうなんですが、
無電解ニッケルめっきは、
電気ニッケルめっきと比べて
価格が高いんです。
えっ!
電気使わないのに
高いんですか!
そうなんです。
じつは、
無電解ニッケルめっきは、
電気ニッケルめっきより
多くの薬品を使用するため、
材料費や管理コストが高いんです。
薬品の数が違うということは、
電気ニッケルめっきと
無電解ニッケルめっきの
皮膜の成分が違うんですか?
そうなんです。
違う皮膜だと思ったほうが
良さそうですね。
しかも、
無電解ニッケルめっきには、
次亜リン酸塩を使った
『無電解ニッケル-リン(Ni-P)めっき』
と、ジメチルアミンボランを使った、
『無電解ニッケル-ボラン(Ni-B)めっき』
があります。
一般的な
無電解ニッケルめっきは、
どっちですか?
一般的な
無電解ニッケルめっきは、
ニッケル-リンが圧倒的に多く、
ニッケル-ボロンは、特殊な用途を
除いて、あまり使用されていません。
いわゆる、
無電解ニッケルめっきって
ニッケル-リンめっきの
ことなんですね。
そうなんです。
しかも
ニッケル-リンめっきは、
- 低リンタイプ
- 中リンタイプ
- 高リンタイプ
に分類されており、
リンの含有量によって、皮膜構造が
変わるので特性が変化します。
ちなみに、
一般的な無電解ニッケルめっきは、
中リンタイプを指します。
リンの含有量が変わると
どうなるんですか?
低リンタイプは、
中リンタイプに比べ耐摩耗性が
優れていますが、耐食性は劣ります。
対して高リンタイプは、
中リンタイプに比べ耐薬品性に
優れているので耐食性が
優れています。しかも、
非磁性の皮膜が得られるので
ハードディスクの下地めっき
などで使用されています。
磁性の有無まで
変化するんですか!
他にも、
潤滑性を向上させるために
PTFE粒子をNi-Pめっき皮膜に
含浸させた、『フッ素樹脂含浸
無電解ニッケル複合めっき』
や
硬度と耐摩耗性を向上させるために
Sic粒子をNi-Pめっき皮膜に
含浸させた、『Sic含浸無電解
ニッケル複合めっき』があります。
色んな種類が
あるんですね。
-
無電解ニッケルめっきは、
外部電源を用いずに、ニッケルを
化学的に還元析出させる方法。 -
無電解ニッケルめっきは、
複雑な形状でも、均一な厚さの
めっき皮膜を得ることができる。 -
導電性のない素材であっても、
表面に触媒を付与すれば、
めっきすることが可能。 -
無電解ニッケルめっきは、
ニッケル-リンが圧倒的に多く、
ニッケル-ボロンは、あまり
使用されない。 -
無電解ニッケル-リンめっきは、
「低リンタイプ」
「中リンタイプ」
「高リンタイプ」
などに分類される。 -
一般的な無電解ニッケルめっきは、
中リンタイプを指す。 -
PTFE粒子を含浸させた、
『フッ素樹脂含浸無電解ニッケル
複合めっき』やSic粒子を
含浸させた、『Sic含浸無電解
ニッケル複合めっき』などがある。
まとめ
ニッケルはレアメタルの一種で、
耐食性に優れ比較的硬度が高いことから
めっき処理に利用されています。
装飾めっきの分野では、光沢ニッケル
めっきや半光沢ニッケルめっきなどが
使われ、装飾目的や耐食性の向上など
の目的で使用されています。
機能めっきの分野では、電気めっきでは
難しい複雑な形状でも、均一な厚さの
めっき皮膜を得ることができる
無電解ニッケルめっきや
PTFEを含浸させて滑り性を向上させた
フッ素樹脂含浸無電解ニッケルめっき
など、様々な用途で使用されています。
一般的に金型へ施すめっきと言えば
クロムめっきですが、塩素が発生する
樹脂に対しては、高い耐食性を
もつ無電解ニッケルめっきが施される
こともあります。
あなたがめっき選定で迷った時の
手助けになればうれしいです。
ありがとうございました。