SUS304とSUS316は、
何が違うんですか?
両方とも
オーステナイト系ステンレス
ですが、成分が違います。
18-8ステンレスって
みたことないですか?
ステンレスのトレイに
書いてありますね。
あれは、
鋼に18%以上のクロムと
8%以上のニッケルを含んだ
ステンレスを表しています。
JIS規格で言う
SUS304に相当します。
そういえば、家の圧力鍋には
18-10と書いてありました。
18-10ステンレスは、
鋼に18%以上のクロムと
10%以上のニッケルを含んだ
ステンレスを表しています。
JIS規格で言う
SUS315J1相当です。
SUS316は、
何になりますか?
SUS316は、
18-12ステンレスです。
鋼に18%以上のクロムと
12%以上のニッケルを
含んでいます。
ニッケルが増えると
どうなるんですか?
ニッケルの含有量が増えると
耐食性が上がります。
ちなみにSUS316は、
モリブデンも約2%
含んでいます。
モリブデンの役割は
なんですか?
モリブデンは、
クロムの酸化皮膜の
再生力を高めます。
クロムとニッケルが多いほど
防錆力も価格も上がります。
なるほど・・・。
SUS304より錆びにくく
高価ということですね。
というやりとりがありました。
今回は、
SUS304とSUS316の違いについて
紹介していきたいと思います。
オーステナイト系ステンレスとは?
オーステナイト
って何ですか?
オーステナイトは、
鋼を727℃以上で
赤くなるまで熱した時に
原子の並びが変化する状態を
オーステナイトと言います。
オーステナイトとは
鋼が赤くなった
状態を言うんですね。
そうです。
赤くなると特性が
変わるんですか?
そうなんです。
オーステナイトの特性は、
- 面心立方体
- 錆びに強い
- 磁石につかない
という特性を持っています。
なるほど、オーステナイトは
分かりました。
オーステナイト系ステンレスと
どうつながるんですか?
これらの特性を
合金元素を多量に添加することで
オーステナイトの状態を
常温で維持させているステンレスを
オーステナイト系ステンレス
と言います。
なるほど。
しかも、
世界で使用されている
ステンレスの70%が
オーステナイト系ステンレス
と言われています。
その代表鋼種が、
SUS304です。
焼入硬化性はないので
注意して下さい。
たまにSUS304でも
磁性があるのは何でですか?
多分、ばね用ステンレス鋼
の事だと思います。
何が違うんですか?
オーステナイト系ステンレスに
冷間圧延などの加工を加えると
結晶構造が一部変化して
磁性を持つことがあります。
ばね用ステンレス鋼は
冷間加工を行っている
ということですか?
そうです。
ばね用ステンレス鋼である
SUS304CSP(H・1/2H・3/4H)が
磁性を持っているのは
冷間加工を行っているからです。
たしかにSUS304H
だったと思います。
-
オーステナイトは、
鋼が赤くなった状態。 -
オーステナイトの特性は、
さびに強い・磁石につかない。 -
合金元素を多量に添加して
常温でもオーステナイトの状態を
維持したステンレス。 -
世界で使用されている
ステンレスの70%が
オーステナイト系ステンレス。 -
焼入れ硬化性はない。
-
冷間加工を行うと
磁性を持つことがある。
SUS304と18-8ステンレスとの違い
SUS304を18-8とも
いいますよね?
いいますね。
JIS規格では、
- SUS304
と表記されますが、
食卓用のナイフやフォークなどの
カトラリー業界では、
- 18-8ステンレス
と表記されます。
18-8ステンレスとは
どういう意味ですか?
18-8という表記は、
- クロム(Cr) 18%以上
- ニッケル(Ni) 8%以上
の含有率を表しています。
参考:日本金属洋食器工業組合-よくある質問
-
JIS規格では、『SUS304』
カラトリー業界では
『18-8ステンレス』
と表記される。 -
18-8の意味は、
クロムとニッケルの含有量を
表している。
SUS304よりSUS316が 優れている理由
SUS304より
SUS316が優れていると
言われていますが
何が違うんですか?
SUS304とSUS316は、
同じオーステナイト系
ステンレスです。
ただし、成分が違います。
どう違うんですか?
SUS304は、先ほども
お伝えした通り
- クロム(Cr) 18%以上
- ニッケル(Ni) 8%以上
を含んでいます。
SUS316の成分は何ですか?
SUS316は、
- クロム(Cr) 18%以上
- ニッケル(Ni) 12%以上
- モリブデン(Mo) 約2%
を含んでいます。
ニッケルの量が増えて
モリブデンが新たに
増えましたね。
これらの違いは何ですか?
これらの合金元素の違いを
具体的に説明していきます。
お願いします。
クロム(Cr)は、
錆びにくくしてくれる元素です。
ステンレスの最大の特徴は
錆びにくいことですもんね。
そうなんです。
錆びにくいのは、
鋼に添加したクロム(Cr)が
鋼が酸化して赤さびを作るよりも早く
薄い酸化皮膜を作ります。
この酸化被膜が保護膜となり
鋼の酸化を防いでくれます。
へぇ~!!
しかもこの保護膜は、
加工や切断などでキズがついても
空気中の酸素と結びついて
保護膜を作ってくれます。
自分で保護膜を
作るんですか!!
自己修復機能を
持っているので
錆びにくいんです。
他の合金元素の
働きは何ですか?
クロム(Cr)と相性の良い
モリブデン(Mo)を
先に紹介します。
モリブデン(Mo)は、
保護膜を強化する
役割を持った合金元素です。
モリブデン(Mo)と
クロム(Cr)って
相性がいいんですね。
そうなんです。
モリブデンは、保護膜の
傷ついた場所のクロム量を増やし、
保護膜の再生力を向上させます。
孔食やすきま腐食と言われる
局所に起こるサビに
強くなります。
ただし、モリブデン(Mo)は
硝酸に弱いです。
硝酸環境では、SUS304とSUS316の
耐食性が逆転する場合もあるので
注意して下さい。
ニッケル(Ni)の役割は
何ですか?
ニッケル(Ni)の役割は、
低い温度での
オーステナイト組織を
安定化させることです。
耐食性はどうなんですか?
ニッケル自体には、
サビの発生を抑制させる
効果はありません。
ただし、サビの進行を
遅くする効果があります。
ニッケル(Ni)と
モリブデン(Mo)が
SUS316の保護膜を
強くしているんですね。
そうです。
SUS304とSUS316の差は、
保護膜の耐食性の差です。
-
SUS304とSUS316の違いは
成分の違い。 -
鋼に添加したクロム(Cr)が、
赤さびを作るよりも早く
酸化皮膜を作る。 -
モリブデン(Mo)は、
保護膜を強化する役割を持った
合金元素。 -
モリブデン(Mo)は、
硝酸環境に弱いので、SUS316を
使用する場合は注意が必要。 -
ニッケル(Ni)は、低い温度での
オーステナイト組織を
安定化させる。 -
ニッケル(Ni)は、サビの進行を
遅くする効果がある。
材料記号の意味
ステンレスは、
SUSの後の数字以外の
記号の意味は何ですか?
記号の代表例を
簡単にまとめてみました。
成分記号 | |
L | 炭素成分が低い「極低炭素鋼」を表します。 加工性と耐粒界腐食性が少し良くなります。 |
N | 窒素を添加したもの。 強度・耐食性が良くなります。 |
Cu | 銅を添加したもの。 冷間加工による、加工硬化性を抑制させます。 |
J1・J2 | 日本独自の鋼種を表しています。 |
材料記号 | |
CSP | ばね用ステンレス鋼 代表的なものにH・1/2H・3/4Hがあります。 |
表面仕上げ記号 | |
NO.1 | HOT材とも呼ばれる。 表面が粗く、光沢のない銀白色。 |
No.2B | Cold材とも呼ばれる。 やや光沢のある、滑らかな仕上げ。 |
#400 | 2B材を400番相当のバフで、 研磨仕上げしたもの。 |
HL (ヘアー ライン) |
150~240番程度の研磨ベルトで、 髪の毛のような、 長く連続した研磨目をつけたもの。 |
No.8 | 鏡面仕上げ用バフで、 鏡に近い仕上げをしたもの。 |
その他の オーステナイト系ステンレス
SUS301やSUS303なども
あるじゃないですか?
その他のオーステナイト系
ステンレスの種類を
簡単に紹介してきます。
代表的な オーステナイト系ステンレス |
|
SUS301 | 冷間圧延によって、SUS304より 高強度・高弾性を得ることが出来る鋼種。 バネ鋼やスチールベルトなどの用途に 使用されます。 |
SUS303 | 切削加工しにくいSUS304に 硫黄(S)を添加して切削加工が しやすくなった鋼種。 SUS304より耐食性が悪く溶接性も悪い。 |
SUS305 | SUS304よりニッケルを増やしたことで 加工硬化が小さく絞り加工など 冷間圧造に向いている鋼種。 |
SUS309S SUS310S |
SUS304よりクロム(Cr)の 含有量を高めた鋼種。 高温での耐酸化性や耐食性に 優れているので、熱処理容器や 炉の部品などの耐熱用途に 使用されます。 |
SUS321 | SUS304にチタン(Ti)を添加した鋼種。 SUS304よりも切削性は悪いが、 チタンを添加したことで耐粒界腐食性や 耐熱性に優れている。 溶接構造用の部材で使用されます。 |
SUS312L SUS836L |
クロム(Cr)・モリブデン(Mo)・ ニッケル(Ni)・銅(Cu)・窒素(N)の 含有量を高めた鋼種。 SUSUS304やSUS316よりも 孔食・すきま腐食・応力腐食割れ・酸 による腐食に優れています。 |
SUS890L | SUS304やSUS316より ニッケル(Ni)・モリブデン(Mo)・ 銅(Cu)の含有量を増やした鋼種。 酸に対する耐食性が優れています。 |
まとめ
SUS304とSUS316の大きな違いは、
不動態皮膜と言われる
保護膜の耐食性に差があることです。
そのため、SUS316のほうが
厳しい環境に適しています。
SUS304より腐食の発生を
抑制することが出来るので
SUS316に変更することは
有効な方法です。
ただし、
成分が大きく違うわけではないので
SUS304で起こる腐食をSUS316で
必ず解決できるわけではないので
注意して下さい。
ありがとうございました。