アルミの溶接を
お願いしたのですが
断られてしまいました。
初めてお願いする
加工屋さん
だったんですか?
いつも、
鉄やステンレスの
溶接をお願いしている
加工屋さんです。
アルミニウムの溶接を
お願いしたことは、
なかったんですね。
そうなんです。
ステンレスと
アルミの溶接って、
何か違うんですか?
一般的に、
アルミニウムの溶接は、
交流の溶接機を使用し、
炭素鋼やステンレスの
溶接は、直流の溶接機を
使用します。
溶接にも、交流や直流が
あるんですか!
あるんです。
アルミ用の溶接機と
ステンレス用の溶接機は
違うんですね。
では、改めて
アルミの溶接が可能な
ところを探してみます。
という、やりとりがありました。
今回は、『溶接』について
簡単にわかりやすく
紹介していきたいと思います。
溶接とは?
そもそも『溶接』って
なんですか?
私の分かる範囲での
説明になりますが
大丈夫ですか?
よろしくお願いします。
『溶接』は、JIS規格で
11101 溶接
2個以上の母材(11110)を、
接合される母材間に連続性が
あるように、熱、圧力又は
その両方によって一体にする操作。
注記1 溶加材を用いても、用いなくてもよい。
注記2 溶接には、サーフェシング
(11801)を含む。
引用:JIS Z 3001-1
溶接用語−第1部:一般
と定義されています。
たまに、母材とか
聞きますが、実は、
良く分かってません。
教えて下さい。
『母材』は、JIS規格で
11110 母材
溶接、ブレーズ溶接及びろう接で、
接合又は肉盛りされる材料。
金属材料の場合は、
母材金属ともいう。
注記 棒、板、形、管又は組立材の形状がある。
引用:JIS Z 3001-1
溶接用語−第1部:一般
と定義されています。
溶接される素材のことを
母材と言うんですね。
そうです。
ちなみに、
注記1の溶加材と
注記2のサーフェシング
について教えて下さい。
分かりました。
『溶加材』は、
JIS規格で
11113 溶加材
溶接中に付加される材料。
フィラーメタルともいう。
引用:JIS Z 3001-1
溶接用語−第1部:一般
と定義されています。
溶接棒や溶接ワイヤなどの
溶接材料のことを
溶加材と言うんですね。
次は、『サーフェシング』
ですが、JIS規格では、
11801 サーフェシング
所要の性質、寸法などを
得るために母材表面に
金属などの層を加える作業。
引用:JIS Z 3001-1
溶接用語−第1部:一般
と定義されています。
サーフェシングとは、
肉盛溶接や溶射のように
目的に応じた材料を
母材の表面に溶着させる
方法のことなんですね。
そういうことです。
溶接とは、母材を加熱
もしくは加圧を行い、
溶融させて接合する方法を
溶接と言うんですね。
-
溶接とは、2個以上の母材に
加熱や加圧を行い溶融させて
接合する方法のこと。 - 母材とは、溶接、ブレーズ溶接
及びろう接で、接合又は
肉盛りされる材料のこと。 -
溶加材とは、溶接棒や
溶接ワイヤなど、溶接中に
付加される材料のこと。 - サーフェシングとは、所要の
性質や寸法などを得るために
肉盛溶接や溶射など、母材表面に
溶着させる方法のこと。
溶接法の種類と特徴
溶接には、アーク溶接や
ティグ溶接など、色んな
種類がありますよね。
ありますね。
正直、違いが良く
分かってません。
溶接法の種類や用途に
ついても、教えて
もらっていいですか?
いいですよ。
溶接法は、
- 溶融接合
- 液相-固相接合
- 固相接合
- 気相-固相接合
に大きく分類されます。
ただ今回は、一般的に溶接と
言われている溶融接合を
紹介していきたいと思います。
お願いします。
ちなみに、
液相-固相接合と
固相接合・
気相-固相接合とは
なんですか?
簡単な説明になりますが、
液相-固相接合は、ろう付けや
はんだ付けが該当し、
固相接合は、拡散接合や
摩擦接合、気相-固相接合は、
物理蒸着や化学蒸着が該当します。
ありがとうございます。
では、溶融接合について
教えて下さい。
溶融接合を
大きく分けると
- アーク溶接
- レーザ溶接
- 抵抗溶接
に分類されます。
あれ?ティグ溶接は
違うんですか?
実は、ティグ溶接って、
アーク溶接の中の
1つなんです。
そうなんですか!
では、これらの溶接法の
基本的な原理を
紹介していきますね。
お願いします。
まず、『アーク溶接』
ですが、JIS規格では
72101 アーク溶接
電気アークを熱源とする融接。
引用:JIS Z 3001-7
溶接用語−第7部:アーク溶接
と定義されています。
どういうことですか?
『アーク溶接』は、
アーク放電によって発生する熱を
利用して、接合部を溶融させて
接合する溶接法のことです。
アーク放電を利用して
溶接するのが、
『アーク溶接』
なんですね。
そうです。
また、
『アーク溶接』は、
数ある溶接法の中で、
最も一般的な溶接法で、
- 被覆アーク溶接
- マグ溶接
- ミグ溶接
- ティグ溶接
といった種類があります。
『アーク溶接』にも
色んな種類が
あるんですね。
次は『レーザ溶接』
について教えて下さい。
『レーザ溶接』は、
JIS規格で
52003 レーザ溶接
エネルギー媒体(JIS Z 3001-1の
11105)としてレーザ光(52002)
を用いて行う溶接。
レーザ光溶接又は
レーザビーム溶接ともいう。
引用:JIS Z 3001-5
溶接用語−第5部:レーザ溶接
と定義されています。
どういうことですか?
つまり、
『レーザ溶接』とは、
発信機で作られたレーザを細く
絞って母材に照射し、溶融させて
接合する溶接法のことです。
人工光のレーザを
利用して溶接するのが
『レーザ溶接』なんですね。
そうなんです。
また、
『レーザ溶接』は、
溶接痕が小さく、
溶接速度が速いのが特徴で、
- 炭酸ガス(CO2)レーザ
- YAGレーザ
- 半導体レーザ
- ファイバーレーザ
などがあります。
なるほど。
では、『抵抗溶接』に
ついても教えて下さい。
分かりました。
『抵抗溶接』は、
JIS規格で
62101 抵抗溶接
溶接継手部に大電流を流し、
ここに発生する抵抗熱によって
加熱し、圧力を加えて行う溶接。
注記 スポット溶接(62104)のように接合部を
溶かして溶接する溶融接合の方法と、
アプセット溶接のように溶かさない
固相接合の方法に分かれる。
引用:JIS Z 3001-6
溶接用語−第6部:抵抗溶接
と定義されています。
どういうことですか?
簡単に説明すると
『抵抗溶接』とは、
大電流を流すことで発生する
抵抗熱を利用して、接合部を
溶融させると同時に、加圧し
接合する溶接法のことです。
金属の電気抵抗を
利用した溶接法
なんですね。
そうなんです。
熱歪みが小さいのが
特徴で、薄板や
溶けやすいメッシュの
溶接に利用されています。
-
溶接法は、溶融接合・
液相-固相接合・固相接合
気相-固相接合に分類される。 -
溶融接合は、大きく分けて
アーク溶接・レーザ溶接
抵抗溶接に分類される。 -
アーク溶接とは、アーク放電に
よって発生する熱を利用して、
接合部を溶融し接合する溶接法。 -
レーザ溶接とは、
発信機で作られたレーザを
細く絞って母材に照射し、
溶融させて接合する溶接法。 -
レーザ溶接は、溶接痕が小さく、
溶接速度が速いのが特徴で、
炭酸ガス(CO2)レーザ・
YAGレーザ・半導体レーザ・
ファイバーレーザなどがある。 -
抵抗溶接は、大電流を流すことで
発生する抵抗熱を利用して、
接合部を溶融させると同時に
加圧して接合する溶接法。
アーク溶接の種類
半自動溶接機って
よく耳にしますが
何溶接なんですか?
アーク溶接ですよ。
そうなんですか!
アーク溶接について
もう少し詳しく
教えて下さい。
分かりました。
まず、
アーク溶接には、
溶融して消耗する溶加材を電極として
使用する『溶極式』と電極がほとんど
消耗しない『非溶極式』があります。
Q3. アーク溶接法にはどのようなものがありますか?
参考:溶接Q&A 基礎知識
株式会社 ダイヘン
ふむふむ。
『溶極式』には、
- 被覆アーク溶接
- マグ溶接
- ミグ溶接
- セルフシールドアーク溶接
- サブマージアーク溶接
があり、
『非溶極式』には、
- ティグ溶接
- プラズマ溶接
などがあります。
詳しく説明してもらって
いいですか?
いいですよ。
ただ今回、
サブマージアーク溶接や
プラズマ溶接は、
自動装置と組み合わせて
使用されることが多いため、
ここでは省略させてもらいます。
分かりました。
では、まず
『被覆アーク溶接』
ですが、JIS規格で、
72102 被覆アーク溶接
被覆アーク溶接棒による
手動のアーク溶接。
手溶接又はSMAWともいう。
引用:JIS Z 3001-7
溶接用語−第7部:アーク溶接
と定義されています。
『被覆アーク溶接棒』
ってなんですか?
被覆アーク溶接棒は、
フラックスと呼ばれる被覆剤を
塗布した溶接棒のことです。
なぜ、被覆剤が塗布
されているんですか?
被覆剤は、
アーク溶接時に、溶融させると
保護ガスやスラグが発生し、
溶接部を大気から保護してくれます。
大気から保護するとは
どういうことですか?
『大気』とは、
つまり『空気』が
溶接部の中に混入すると、
『気孔』といった溶接不良の原因に
なるため、大気から溶接部を
保護する必要があるんです。
なるほど。
次の『マグ溶接』と
『ミグ溶接』は、
シールドガスを使い、自動送給される
ワイヤ電極と母材の間にアークを
発生させて溶接する方法で、
ほぼ、溶接機は共用になっています。
JIS規格では、
72117 ミグ溶接
不活性ガスでワイヤ電極と
溶接部とをシールドする
ガスシールドアーク溶接。
MIG溶接ともいう。
注記1 MIGは、metal inert gasの頭文字。
注記2 シールドガスにアルゴン、
ヘリウム又はアルゴンと
ヘリウムとの混合ガスを用いる。
引用:JIS Z 3001-7
溶接用語−第7部:アーク溶接
72118 マグ溶接
不活性ガスに炭酸ガス又は酸素を
混合した活性ガスでワイヤ電極と
溶接部とをシールドする
ガスシールドアーク溶接。
MAG溶接ともいう。
注記1 MAGは、metal active gasの頭文字。
注記2 シールドガスには、0.5 %以上の酸素
又は炭酸ガスの混合ガスを用いる。
注記3 炭酸ガス100 %も含む。
引用:JIS Z 3001-7
溶接用語−第7部:アーク溶接
と定義されています。
シールドガスって
なんですか?
シールドガスは、
JIS規格で、
74128 シールドガス
溶接中にアークと溶融金属とを覆い、
空気が溶接雰囲気内に侵入することを
防ぐために用いるガス
引用:JIS Z 3001-7
溶接用語−第7部:アーク溶接
と定義されています。
『ミグ溶接』と
『マグ溶接』は、
使用するシールド
ガスの種類が
違うんですね。
ちなみに、
シールドガスを使用せずに、
フラックスが塗布された
被覆ワイヤを使用する溶接を
『セルフシールドアーク溶接』
と言います。
JIS規格では、
72107 セルフシールドアーク溶接
フラックス入りワイヤを用いて、
外部からシールドガスを
供給しないで行うアーク溶接。
ノンガスシールドアーク溶接
ともいう。
引用:JIS Z 3001-7
溶接用語−第7部:アーク溶接
と定義されています。
半自動溶接機とは、
『マグ溶接』『ミグ溶接』
『セルフシールドアーク溶接』
のことだったんですね。
最後は、
『ティグ溶接』ですが、
JIS規格では、
72126 ティグ溶接
非消耗の純タングステン又は酸化物
入りタングステンを電極に用い、
電極部と溶融池とをシールドガスで
保護するガスシールドアーク溶接。
非消耗タングステン電極溶接、
TIG溶接又はGTAWともいう。
注記1 TIGは、tungsten inert gasの頭文字。
注記2 シールドガスは、アルゴン、ヘリウム
又は両者の混合ガスを使用する。
注記3 溶加材を用いる場合と用いない場合とがある
引用:JIS Z 3001-7
溶接用語−第7部:アーク溶接
と定義されています。
『ティグ溶接』も
ガスシールドアーク溶接
なんですね。
ティグ溶接の特徴を
教えて下さい。
ティグ溶接は、
『仕上がりがきれいで、スパッタの
発生がほとんどない。』という
メリットはありますが、『溶接速度が
遅い』というデメリットもあります。
なるほど。
また、一般的に、
炭素鋼やステンレスなどの溶接には
直流溶接機が、アルミニウムや
マグネシウムなどの溶接には
交流溶接機が使用されます。
-
アーク溶接法には、溶融して
消耗する溶加材を電極に使用する
『溶極式』と電極がほとんど
消耗しない『非溶極式』がある。 -
溶極式には、被覆アーク溶接
マグ溶接・ミグ溶接・
セルフシールドアーク溶接・
サブマージアーク溶接があり、
非溶極式には、ティグ溶接・
プラズマ溶接などがある。 -
『被覆アーク溶接』とは、
フラックスと呼ばれる被覆剤を
塗布した被覆アーク溶接棒で
行う手動のアーク溶接のこと。 -
『マグ溶接』『ミグ溶接』は、
シールドガスを使って、
自動送給されるワイヤ電極と
母材の間にアークを発生させる
ガスシールドアーク溶接のこと。 -
『セルフシールドアーク溶接』は、
シールドガスを使用せずに、
フラックスが塗布された
被覆ワイヤを使用したアーク溶接。 -
『ティグ溶接』は、非消耗の
純タングステン又は酸化物入りの
タングステンを電極に使用し、
溶接部をシールドガスで保護する
ガスシールドアーク溶接のこと。 -
一般的に炭素鋼やステンレス
などの溶接には直流溶接機が、
アルミニウムやマグネシウムなどの
溶接には交流溶接機が使用される。
直流溶接機と交流溶接機の違い
なぜ、炭素鋼や
ステンレスには、
直流溶接機を
アルミニウムには、
交流溶接機を
使用するんですか?
その説明の前に、
直流アーク溶接の
電極の極性について
説明しますね。
お願いします。
直流アーク溶接は、
電極をマイナス側にするか
プラス側にするかで、
アークの現象や特性が違うんです。
そうなんですか!
電極をマイナス側にする
『棒マイナス』の場合、
集中した強いアークを発生させるので、
幅が狭く、溶け込みが深い溶接と
なる上、電極の消耗が少なく済むので
通常のアーク溶接では、
『棒マイナス』を用います。
『棒マイナス』って
なんですか?
『棒マイナス』は、
JIS規格で
73220 棒マイナス
直流アーク溶接において、母材を
電源のプラス側に、溶接棒又は電極を
マイナス側に接続する接続法。
ワイヤ電極の場合は、ワイヤマイナス
ともいう。DCENともいう。
引用:JIS Z 3001-7
溶接用語−第7部:アーク溶接
と定義されています。
なるほど。
では、『棒プラス』も
あるんですか?
ありますよ。
『棒プラス』は、
JIS規格で、
73219 棒プラス
直流アーク溶接において、母材を
電源のマイナス側に、溶接棒又は
電極をプラス側にする接続法。
ワイヤ電極の場合は、ワイヤプラス
ともいう。DCEPともいう
引用:JIS Z 3001-7
溶接用語−第7部:アーク溶接
と定義されています。
『棒プラス』だと
どうなるんですか?
『棒プラス』の場合、
集中した強いアークが発生しないので、
幅が広く溶け込みの浅い、溶接に
なる上、電極の消耗が多くなります。
『棒プラス』って
ダメじゃないですか!
通常、
『棒プラス』を使った溶接は、
ほとんどありませんが、
母材表面の酸化皮膜を除去する
『クリーニング作用』
を得ることが出来ます。
酸化皮膜とアルミには
どんな関係があるんですか?
実は、
アルミニウムやマグネシウム
などの合金は、表面に強固な
酸化皮膜を持っています。
アルミニウムの表面には、
酸化皮膜があるんですね。
そのため、
アルミニウムのような酸化皮膜が
ある合金には、クリーニング作用を
行いつつ、溶け込みの深い溶接が
行える、両方の極性の特徴をもった
交流の溶接機が用いられます。
アルミニウムの溶接に
交流を使用するのは、
酸化皮膜を除去する
ためだったんですね。
また、最近の
交流ティグ溶接機には、
周波数を任意で変化させることが
可能なものがあり、周波数を
高くすることで、アークが集中し
直流ティグ溶接に似た、
アーク特性を得ることが出来ます。
周波数が高くなる
ということは、
クリーニング幅が
小さくなりませんか?
確かに、
小さくなります。
ただ、
200Hz程度の周波数であれば、
きれいな外観の溶接に
なるようです。
-
直流アーク溶接は、
電極をマイナス側にするか
プラス側にするかで、
アークの現象や特性が違う。 -
『棒マイナス』の場合は、
幅が狭く、溶け込みが深い
溶接となるだけでなく、
電極の消耗が少なく済むので、
通常のアーク溶接では、
『棒マイナス』を用いる。 -
『棒プラス』の場合は、幅が広く
溶け込みの浅い溶接になる上、
電極の消耗が多くなる。 -
『棒プラス』を使った溶接は、
ほとんどないが、
母材表面の酸化皮膜を除去する
『クリーニング作用』
を得ることが出来る。 -
アルミニウムのような酸化皮膜が
ある合金には、クリーニング作用を
行いつつ、溶け込みの深い溶接が
行える交流の溶接機が用いられる。 -
交流ティグ溶接機の周波数を
高くすると、アークが集中し
直流ティグ溶接に似た、
アーク特性を得ることが出来る。
まとめ
溶接は、金属などの材料に熱や圧力を
加えて接合する方法で、飛行機や
船舶・自動車・自転車・滑り台など、
様々なところで使われています。
ただし、一言で溶接と言っても、
アーク溶接・レーザ溶接・抵抗溶接など
様々な種類があるので、あなたの
用途に合った溶接方法を選んで下さい。
ありがとうございました。