フッ素樹脂のテープを
使っているんですが、
他に滑り性がいいもの
ありますか?
なにか問題ありました?
頻繁に使用するので
少しでもコストを
下げたいんです。
そうなんですね。
使用している温度は
高いんですか?
常温です。
じゃあ、フッ素樹脂に次ぐ
滑り性をもった
『超高分子量ポリエチレン』
のテープはどうですか?
滑るんですか?
家の引き戸やふすまを
滑りやすくするテープが
この材質でできています。
あぁ!
敷居に貼るテープの
ことですね。
一度試してみたいので
そのテープを下さい。
分かりました。
という、やりとりがありました。
今回は、『超高分子量ポリエチレン』
について、簡単にわかりやすく
紹介していきたいと思います。
UHMW-PEとPEの違い
『超高分子量ポリエチレン』
と『ポリエチレン』は、
なにが違うんですか?
私の分かる範囲での
説明になりますが
大丈夫ですか?
よろしくお願いします。
まず、
『超高分子量ポリエチレン』
はJIS規格で、
PE-UHMW
ポリエチレン、超高分子量
注記 UHMWPEより望ましい。
polyethylene、
ultra high molecular weight
引用:JIS K 6899-1:2015
プラスチック−記号及び略語−
第1部:基本ポリマー及びその特性
と、略語が
規定されています。
『PE』がポリエチレンの
略語になるんですね。
そうです。
ちなみに、
molecular weight
(モレキュラーウェイト)
が、『分子量』という
意味です。
そして、
PE-UHMWは、
分子量が2万~30万程度の
PE-LD (ポリエチレン、低密度)や
PE-HD(ポリエチレン、高密度 )
といった、一般的なポリエチレンに
対し、100万以上まで分子量を
高めたポリエチレンの事です。
すみません。
どうしました?
一般的に、UHMW-PEや
LDPE・HDPEと
表記されていることが
多いので、こちらで話を
進めさせてください。
いいですよ。
ありがとうございます。
しかし、
超高分子量ポリエチレン
と一般的なポリエチレン
では、分子量の桁が
全然違うんですね。
そうなんです。
ちなみにLDPEとHDPE
って、どんな用途で
使われているんですか?
LDPEは
透明度が高く、透明なゴミ袋・
ラップ・マヨネーズ容器といった
生活用品や、電線の被覆材などに
使用されています。
透明な袋やラップって
LDPEで出来て
いるんですね。
一般的に『プチプチ』と
いわれる緩衝材も
LDPEで出来ています。
あれも、
LDPEで作られて
いるんですね。
では、HDPEについても
教えて下さい。
HDPEは
透明度が低く、シャンプーや
ボディソープなどの容器や
運搬用コンテナ・ブルーシート・
配管材・不透明なレジ袋などに
使用されています。
HDPEの方が
硬い感じですね。
そうです。
HDPEの方が、
若干硬いです。
ただ、どちらも
レジ袋に使用されて
いるんですね。
そうなんです。
もともとレジ袋は、
LDPEで作られていましたが、
ポリエチレンの原料である
ナフサの価格が高騰したため
LDPEより薄くても丈夫な
HDPEが多く使われるように
なったそうです。
そんな事情が
あったんですね。
では、UHMW-PEは、
どう違うんですか?
UHMW-PEは、
LDPEやHDPEといった
一般的な汎用ポリエチレンより、
物理的・化学的な特性がはるかに
優れているので、エンジニアリング
プラスチックに分類されています。
エンジニアリング
プラスチックって
なんですか?
エンジニアリング
プラスチックとは、
工業用の過酷な条件でも
使用できるように、耐熱温度や
機械的強度を向上させた
プラスチックのことです。
エンプラとは
参考:エンプラ技術連合会
工業用の過酷な条件下でも
使用できるように開発された
ポリエチレンが、
UHMW-PEなんですね。
-
UHMW-PEは、LDPE や
HDPEなどと違い、
100万以上まで分子量を
高めた樹脂のこと。 -
LDPEは透明度が高く、透明な
ゴミ袋・ラップ・マヨネーズ容器
といった生活用品や、電線の
被覆材などに使用されている。 -
HDPEは透明度が低く、
シャンプーやボディソープなどの
容器や運搬用コンテナ・
ブルーシート・配管材・不透明な
レジ袋などに使用されている。 -
UHMW-PEは、一般的な
汎用PEより、物理的・化学的な
特性がはるかに優れているため、
エンジニアリングプラスチックに
分類される。 -
エンジニアリングプラスチック
とは、工業用の過酷な条件でも
使用できるよう、耐熱温度や
機械的強度を向上させた
プラスチックのこと。
UHMW-PEと他エンプラとの比較
一般的なポリエチレンと
UHMW-PEが違うことは
分かりました。
次は、
UHMW-PEの特徴に
ついて教えて下さい。
分かりました。
『超高分子量ポリエチレン』
UHMW-PEは、
- 比重が小さい。
- 滑り性が良い。
- 耐衝撃性に優れている。
- 耐摩耗性に優れている。
- 耐薬品性に優れている。
- 吸水性が低い。
- 食品衛生法に適合している。
といった特徴があります。
色んな特徴がありますね。
では、UHMW-PEは
他のエンプラと比べて
どこが優れてますか?
他材質と比較すると
UHMW-PE 他材料との比較
参考:三井化学株式会社
UHMW-PE
超高分子量ポリエチレン
このようになります。
軽量で滑り性や
耐摩耗性に優れた
材質なんですね。
そのうえ、
ポリカーボネートを上回る
高い耐衝撃性をもっています。
耐衝撃性
参考:三井化学株式会社
ハイゼックスミリオン®
ポリカーボネートって
たしか、防弾シールドに
使われている材質ですよね。
そうです。
そんな材質より、
耐衝撃性が高いんですか!
すごいですね。
UHMW-PEの長所は
分かりましたが、
短所はありますか?
ありますよ。
UHMW-PEは、
滑り性・耐薬品性に優れている反面
接着性が非常に悪いです。
そのため、接着剤で接着するには
下地処理が必要になります。
長所が短所に
なってしまうんですね。
そうなんです。
他にも、
エンジニアリングプラスチックの
中では、「温度による寸法変化が
一番大きい材質」といわれています。
なるほど。
UHMW-PEは、
精密加工に向かない
材質なんですね。
UHMW-PEの構造
なぜUHMW-PEは、
比重が、0.93g/ccと
小さいんですか?
ちなみに、
比重が1.0g/cc以下なので
水に浮きますよ。
たしか、水の比重が
1.0g/ccですもんね。
そうです。
そもそも、
高分子といわれるプラスチックの
ほとんどは、炭素(C)・
水素(H)・酸素(O)・窒素(N)
の原子からできています。
高分子の特徴って?
~金属・セラミックスとのちがい②~
参考:高分子未来塾
公益社団法人 高分子学会
「水兵リーベ」
とかいうやつですね。
そうです。
実は、この元素の
周期表の順番は、原子の
重さ順に並んでいます。
ということは、
「水素原子が一番軽い」
ということですね。
そうです。
そして、
UHMW-PEは、(-CH2-CH2-)の
繰り返しで構成されているので
軽いんです。
周期表1番目の「水素」と
周期表6番目の「炭素」で
できているから、
比重が小さいんですね。
しかも、
この(-CH2-CH2-)という結合は、
化学的に安定しているため、
耐薬品性に優れ、
吸水性が低い材質になります。
「化学的に安定」とは
どういうことですか?
「化学的に安定」
というのは、
不対電子を持っていないので
他の物質と出会っても
化学反応を起こしにくい
ということです。
「不対電子」って
なんですか?
不対電子は、
JIS規格で
2-1-9 不対電子
電子対を作っていない電子。
奇電子ともいう。
引用: JIS C 5600:2006
電子技術基本用語
と定義されています。
つまり、
不対電子とは、ペアになっていない
一人ぼっちの電子のことで、
不対電子を持っていると
化学反応しやすくなってしまいます。
良く分かりませんが、
一人ぼっちの電子が
いないと、水にも
薬品にも反応しにくい
材質になるんですね。
そういうことです。
UHMW-PEが、
化学的に強い理由は
分かりました。
では次は
「機械的な強度」特に、
耐衝撃性が優れている
理由を教えて下さい。
基本的に
限界はありますが、分子量が
大きくなると衝撃強度が
強くなります。
なぜ、分子量が
大きくなると衝撃に
強くなるんですか?
UHMW-PEは、
ラメラ構造といわれる
結晶層と非晶層が積み重なった
層状の構造になっています。
結晶性と非晶性
参考:エンプラ技術連合会
そして、
この結晶間を結ぶ非晶層に
タイ分子(タイモレキュール)が
多くなるほど耐衝撃性が上がります。
UHMW-PEは、
分子量が大きいので
結晶間を結びつける
タイ分子の数が
多くなり、耐衝撃性が
高くなるんですね。
しかもラメラ構造は、
結晶層と非晶層との境界部分で
ズレをおこしやすいため、
滑り性が良くなります。
表面の分子が
移動しやすいので
滑りやすいんですね。
-
高分子といわれるプラスチックの
ほとんどは、炭素(C)・
水素(H)・酸素(O)・窒素(N)
の原子からできている。 -
UHMW-PEは、(-CH2-CH2-)の
繰り返しで構成されているので
軽い。 -
UHMW-PEの(-CH2-CH2-)
という結合は、化学的に安定
しているため、耐薬品性に優れ、
吸水性が低い材質になる。 -
「化学的に安定」というのは、
不対電子を持っていないので
他の物質と出会っても
化学反応が起きにくいこと。 -
ラメラ構造間を結ぶ
タイ分子(タイモレキュール)が
多くなるほど耐衝撃性が上がる。 -
ラメラ構造は、結晶層と
非晶層との境界部分でズレを
おこしやすいため、
滑り性が良くなる。
UHMW-PEのメーカーさんと商品名
UHMW-PEを
製造している、
メーカーさんを
教えて下さい。
UHMW-PEを
製造している
メーカーさんは
色々あります。
教えて下さい。
代表的なメーカーさんと
商品名は、
UHMW-PEのメーカーと商品名 | |
材料メーカー | 商品名 |
作新工業株式会社 | ニューライト |
三菱ケミカルアドバンスド マテリアルズ株式会社 |
タイバー (旧ソリジュール・旧U-PE) |
住友ベークライト株式会社 | サンモラー |
タキロンポリマー株式会社 | ウルモラー |
エス・ケー・エス エンジニアリング株式会社 |
ハイモラー |
三ツ星ベルト株式会社 | UHMW |
ナック・ケイ・エス株式会社 | RU-PE |
などがあります。
同じUHMW-PEでも
メーカーさんによって
色んな商品名が
あるんですね。
そうなんです。
これを覚えておくと
材料の入手が困難な時、
代替が可能ですね。
まとめ
超高分子量ポリエチレンは、
分子量2万~30万程度の一般的な
ポリエチレンと違い、平均分子量を
100万以上に高めたポリエチレンの
ことで、軽量・無毒性で、滑り性・
高強度・耐衝撃性に優れています。
また、連続使用温度は80℃以下と
高くはありませんが、化学的に
安定しており、吸水性・
耐薬品性にも優れています。
激しい衝撃や摩擦による摩耗で
困っている箇所に、一度
検討してみてはいかがでしょうか?
ありがとうございました。